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チェルノブイリ後の小児甲状腺癌検診5万人の結果を考える [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
小児甲状腺検診論文.jpg
1995年のThyroid誌に掲載された、
チェルノブイリ後の周辺地域における、
小児の甲状腺検診の結果を集計した論文です。

笹川財団の支援により、
山下俊一先生や長瀧重信先生らの、
グループによって主導された検診です。

余談ですが、
この文献のダウンロードの料金は、
これ1つ読むだけで50ドルです。
びっくりの値段で酷いなあ、責任者出て来い、と思いますが、
abstractでは知りたいことが分からず、
図書館に行くような時間がないので仕方がありません。
ちょっと元手が掛かっているのです。

それはさておき…

1991年の5月から1993年の12月に掛け、
55054人のチェルノブイリ周辺地域のお子さんに対して、
甲状腺の超音波検査が施行され、
5ミリを超える何らかの病変が発見されると、
甲状腺に針を刺して細胞を吸い取る、
甲状腺の穿刺吸引細胞診が検討され、
施行されています。
実際に施行されたのは197例で、
診断が成功したのはそのうちの171例です。
吸引細胞診というのは、
実際にはうまく細胞が取れなかったり、
取れても判定が困難、ということがあるのです。

次をご覧下さい。
小児甲状腺検診人数の表.jpg
検診が行なわれた地域と、
その人数を示したものです。

一番上のMogilevは放射性物質の降下量が、
少ない地域と考えられていて、
これはコントロールの意味合いがあるのです。
その下のGomelは、
小児甲状腺癌が多く報告されている、
放射性物質の降下量の多い地域です。
チェルノブイリのすぐ北に位置しています。

右側に書かれているのが、
超音波検査の異常検出の頻度で、
異常の頻度は、
矢張りGomelで多いことが分かります。
その下のロシアのBryanskは、
Gomelの東隣に位置しています。

それではどのような異常が多かったのでしょうか?
次をご覧下さい。
小児甲状腺癌検診結果の図.jpg
実際に細胞診で診断が確定した、
171例の内訳を表にしたものです。
画像を見易くする関係で、
実際の図表の右を少し切っています。

甲状腺乳頭癌が、
4例のみ検出されています。
全体の55054人を分母にすれば、
0.007%という低率です。

一番多かったのはこの画像では一番右にある、
慢性甲状腺炎で、
所謂橋本病です。

細胞診の中での陽性率は3割ですが、
検診した5万人中での比率は僅かです。
小児の甲状腺腫の3割程度が慢性甲状腺炎であった、
という報告が過去にあり、
その意味では一般的な頻度を超えている、
とは言えない結果なのです。

皆さんはこの結果をどうお考えになりますか?

まずMogilevを非汚染地域と考えると、
そこで1万2千人に超音波の検診を行ない、
異常所見の検出率が1%であったという事実は、
低年齢層における甲状腺異常の検出率が、
それほど多いものではない、
という事実を示唆するものです。

これは5ミリ以上の病変は所見としてカウントしているので、
所謂微小癌もその多くを含んでいるのです。

従って、
勿論人種差や地域差も、
甲状腺病変の頻度には存在するので、
この結果をそのまま適応は出来ませんが、
10歳未満の年齢層で、
今後超音波所見上の明確な異常が指摘されれば、
矢張り被曝との関連性を、
一度は疑うべきだ、
ということは言えると思います。

次にこの検診の時点で、
実際には多くの顕性の甲状腺癌が、
当該の地域で手術となっており、
今から考えると、
この検診は必ずしも現場の実相を、
反映していないという点が、
もう1つのポイントです。

チェルノブイリ後20年のまとめで、
検診当時の14歳以下の小児甲状腺癌の統計を見ると、
10万人当たり2~3人程度ですから、
その点から考えればおかしくはありません。
ただし、検診は5ミリ以上の結節は全て拾い上げていて、
しかも3年に渡るデータですから、
その意味ではもう少し例数が多くても良いのではないか、
と思えます。
少なくとも数十例の微小癌でない小児甲状腺癌の患者さんが、
その期間に治療を受けていることは事実です。

その意味でたとえ数万人レベルの検診を行なったとしても、
そこに集まるお子さんと、
実際に甲状腺の異常を来たすお子さんとは、
同一とは言えない場合がある、
という点に注意が必要だと思います。

お子さんを心配して、
行政が旗振りをする検診に、
駆け付けるお母さんがいる一方で、
そんなものは信用出来ないと、
そうした検診には参加せず、
別個に検査を受けるお母さんや、
そんなことは我関せずと、
何もしないお母さんもいる訳です。

福島県のケースでもチェルノブイリのケースでも、
同じ傾向があると思いますが、
本当に被曝を沢山受けている方というのは、
むしろ放射線の被曝に無関心な方であり、
検診にも行かず、
体調が本当に悪くなってから、
慌てて医療機関に駆け込むような方である場合が多い、
という点に、
僕達はもう一度注意を払う必要があるのではないか、
と思うのです。

更には著増したと言っても、
統計的にはせいぜい10万人に1~10例程度の比率ですから、
検診でその増加を確認するには、
数万人規模の検診でも困難であるのです。

現在基本的にはチェルノブイリと同じ甲状腺検診が、
同じ研究者の主導の元に、
遥かに大規模な形で福島県で行なわれているのですが、
その長所と短所、そして僕達が何をその結果に見るべきかについては、
上記の論文から学ぶべき点は非常に多いと僕は思います。

今日はチェルノブイリ周辺の甲状腺検診から、
今後の甲状腺検診のあり方を考えました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 8

人力

貴重な資料をありがとうございます。
この様な研究をされてきた山下教授に浴びせられる誹謗中傷には胸が痛みます。

非常に低率の減少を統計的に裏付ける難しさの好例とも言えますが、放射線によって小児甲状腺癌が増加するという傾向は読みとれます。
山下教授もそうおっしゃっていますので、これは事実として「放射線はそれ程危険では無い」と主張する私なども、しっかりと認識する必要があります。

服部貞夫氏などは、専門家ではありませんが、電力中央研究所のマウスの実験に照らし合わせても、チェルノブイリの小児甲状腺癌が多発した理由が分からないと語っています。細胞のDNAの修復能力は相当高いと主張しています。

マウスの実験がX線の外部被曝で行われています。β線による内部被曝の場合、甲状腺の様な小さな臓器が、選択的にヨウ素を取り込んだ場合のDNAの破壊は結構大きいのかも知れませんね。或いは、ヨウ素の初期被曝が想像以上に深刻だったのか・・・。
by 人力 (2012-01-24 13:51) 

つつ

先生、情報ありがとうございます。
やはり先生の話を聞くと、心が落ち着いてきますね。
メディアリテラシーという言葉通り、情報が氾濫しているこの世の中で、何を真実として見極めるかが、とても重要になってくると思います。
そういう点で、先生のブログは大変参考になります!

低率かもしれませんが、原発事故がなければ発症する事がなかったかもしれない小児甲状腺癌。
数字上からは、その子の症状、気持ち、ご両親の気持ちは見えません。
僕らは数字を見て判断しがちですが、そこには間違いなく「人」が存在している事を忘れてはいけないと、先生のブログを読んでいて思いました。

1991年8月4日に放送された「チェルノブイリ小児病棟~5年目の報告~」を見ていて涙が出てきました。
youtubeで見れるので、もし時間があれば見てみてください。






NPO法人チェルノブイリ医療支援ネットワークにも甲状腺についての記載があります。ご参考まで。
http://www.cher9.to/

by つつ (2012-01-25 11:53) 

fujiki

人力さんへ
コメントありがとうございます。
人力さんは議論好きで非常に羨ましく思います。
僕はどうも議論というのが信用出来なくて、
取り敢えず面倒からは逃げてしまいます。
基本的に他人の意見というものに、
あまり興味がないのかも知れません。
本当はそれではよくないですね。
by fujiki (2012-01-25 23:12) 

fujiki

つつさんへ
過分なお言葉ありがとうございます。
そう言って頂けると励みになります。
リンク参考にさせて頂きます。
by fujiki (2012-01-25 23:15) 

空色parakeet

先生こんにちは。年末にコメントさせて頂いた者です。
返信頂いたのに御礼も申し上げず申し訳ありません。

さて本日のお話も、がんばって読ませて頂きました。
4000円(円高になりましたね…)もの金額を掛けてのDL、
本当に感謝致します。

先生もおっしゃるように、
こういったデータを見るときには、
本当に注意が必要ですね。
(特に私のような一般人は、報道等でしか見れず、
 元データが解釈されてしまっているので)


前日のブログに先生のコメントとしてもありましたが、
・母集団はどのように集められたのか?
(意識の高い人の集団ではないのか?)

また、先生のインフルの検査のお話からも示唆されるように

・そもそもその検診で、どの程度ガンが検知できるのか?
(この地域のガンは他の地域のガンと比べて進行が早いようなので
 この地域における検知率を知るためには、
 全員の追跡調査が必要なのでは?)

といったことを、改めて思いました。


それと…、データ自体で気になった点があります。

Mogilev と Gomel の検査結果には
かなりの開きがあるように思います。

  Mogilev  詳細検査 18/124(14.5%)  →ガン検知は 0/12285
  Gomel   詳細検査 39/417(9.3%) →ガン検知は 2/8949
(Gomelの方が、疑わしい人への詳細検査率が低いにも関わらず、
 ガン検知率が高い)

詳細検査の結果だけを見ても、ガン以外の疾患を含めて、gomelは、mogilevの約2倍の数字が出ています。

にもかかわらず、調査結果は
「全地域合わせて」4/55054とされているのには違和感がありました。


うまくまとまらず申し訳ありません。
このような色々な具体例を頭の隅っこに入れて、
報道を読み、また自分の行動を僅かでも変えていきたいと思います。
これからもブログ楽しみにしております。
by 空色parakeet (2012-01-26 12:34) 

fujiki

空色parakeet さんへ
コメントありがとうございます。
今の福島県の検診も、
しこりは5ミリを判断の指標にしていて、
チェルノブイリとの比較を、
念頭に置いているものだと思います。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2012-01-27 08:23) 

つつ

先生、これから花粉の季節です。
今年の花粉はセシウムの問題があり、不安がつきまといます。
先生の見解をまた聞かせてもらえればと思います。


共立耳鼻咽喉科の山野辺滋晴さんが、「スギ花粉飛散と花粉用マスクによる被曝防護について」レポートを書いてました。
http://ryumurakami.jmm.co.jp/dynamic/report/report22_2880.html

時間がある時でいいので、読んでみてください。
よろしくお願い致します。
by つつ (2012-01-29 01:18) 

fujiki

つつさんへ
情報ありがとうございます。
参考にさせて頂きます。
by fujiki (2012-01-30 08:22) 

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