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特発性大腸穿孔を考える [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

昨日は4枚半くらい書きました。

それでは今日の話題です。

腹痛で大学病院を受診された、
70代の女性の患者さんが、
便秘による腹痛との診断の元に、
浣腸を施行されて夕方帰宅。
その翌朝心肺停止で他の病院に救急搬送され、
死亡された、という事例が、
先日報道されました。

実際には2年半以上前の話ですが、
最近になり示談が成立したため、
病院側から公表された、
という経緯のようです。

患者さんは異状死の届出が成されて解剖に付され、
その結果「特発性大腸穿孔」と診断されました。

今日の話は、
実際のこの出来事自体の問題点というものではなく、
「特発性大腸穿孔」とは何か、ということと、
その診断の難しさ、
そして、この病気を見落とさないために、
末端の医者として出来ることは何か、
またやってはいけないことは何か、
ということについてです。

1つの叩き台として上記の事例を取り上げますが、
誰かを非難したり、
確定した事実について疑問を呈したりする意図は、
全くないことをご了解の上、
慎重にお読み頂ければ幸いです。

それでは始めます。

大腸穿孔というのは、
その名の通り腸に穴の開くことです。

消化管というのは口から食道、胃、小腸、大腸、肛門と続く、
1つの管で、その内部は身体の一部であると共に、
身体の外でもある、という特殊な性質があります。
口から入った栄養分を、
消化し吸収して体内に入れると共に、
不要なものがそこに排泄され、
便となって身体の外に出ます。

この消化管に穴が開けば、
その穴を通して身体の中に、
本来は排泄される筈の有害物質が流れ込むのですから、
身体にとっては深刻な事態となるのです。

たとえて言えば、
下水管が破裂して、
汚物が水道に流れ込むような事態です。

さて、消化管穿孔も、
その穴の開く場所によって重症度が違います。

通常穿孔の多いのは主に胃十二指腸と大腸ですが、
胃と十二指腸は胃液の消毒作用により、
基本的に細菌の繁殖する場所ではないので、
漏れても腹膜炎は起こし難いのです。
一方大腸は通常でも腸内細菌の多い場所ですし、
病原性のある細菌も、
その性質上繁殖し易い場所です。
従って、大腸に穴が開くと、
すぐに重症の腹膜炎を起こし、
それが事態を深刻にするのです。

つまり、胃十二指腸の穿孔よりも、
大腸の穿孔の方が、
より急激に悪化し易く、
その重症度が高いのです。

これが1つのポイントです。

それでは、大腸に穿孔の起こる原因には、
どのようなものがあるでしょうか?

1つは腸に起こった炎症が悪化したような場合です。
炎症により痛んだ腸の粘膜に圧力が掛かり、
そこがおできがはじけるように、
穿孔を起こすのです。
潰瘍性大腸炎のような炎症性の腸の病気が原因となることもありますし、
盲腸が悪化した場合や、
憩室炎が悪化した場合、
大腸の結核なども原因となることがあります。

次に高齢の方で動脈硬化が進行すると、
腸の一部が心筋梗塞のように虚血になる、
虚血性腸炎という病気があり、
その場合にも虚血になった腸は脆く破れ易くなるので、
穿孔の原因となります。

医療処置によるものでは、
大腸の内視鏡検査でポリープを取るような処置をした時に、
誤って腸を深く傷付けてしまい、
そこに穴が開くことがあります。

これは勿論現在では経験のある医者が施行すれば、
非常に稀なトラブルになりましたが、
皆無ではありません。

実際ごく最近にも、
大腸の内視鏡検査の実績のある施設で、
まだ経験の浅い医者が、
1人で施行してポリープ切除時に血管を傷付け、
その後緊急入院になった事例を、
診療所からご紹介した患者さんで経験しています。
すぐに気が付けば大きな問題にはならなかったのですが、
施行時には損傷のあったことに施行医は気が付かず、
患者さん自身は強い痛みを訴えていたにも拘わらず、
そのまま帰宅させてしまったのです。
その2日後に大量出血のため緊急入院となりました。
僕もまさかその施設で本当にそんなことがあるとはと、
お聞きして呆然とするような思いを感じましたが、
これは嘘偽りのない事実です。

特殊な趣味を持つ方が、
肛門から異物を挿入し、
更には通常は使用しない身体の一部が、
肛門から挿入されることにより、
腸が傷付き穿孔を起こすことも報告されています。

そして、特に高齢者に多いのが、
便秘による腸の圧力上昇に伴う大腸穿孔です。

ご高齢で大腸の動きが落ち、
水分をあまり摂らない生活で便が出難くかつ固くなると、
石のような便が腸を傷付けることもあり、
便秘のためにスムースに便が移動しないため、
大腸の圧力が部分的に異常に高まります。
ご高齢の方では大なり小なり動脈硬化に伴う腸の虚血もあるので、
そうした弱い場所に便秘で強い圧力が掛かることにより、
大腸穿孔が生じるのです。

これを宿便性大腸穿孔と呼んでいます。

最初の大学病院の事例では、
最終的な診断は「特発性大腸穿孔」とされています。
この表現は明確な原因の見付からない大腸穿孔という意味で、
狭い意味では便秘による大腸穿孔は含みませんが、
実際にはどちらとも特定することの出来ない事例は多く、
「特発性大腸穿孔」の1つの大きな要因は、
高齢者の便秘であることは、
間違いのない事実です。

ここで最初の事例に戻りますが、
年齢は70代で特に基礎疾患はない方のようです。
ただ、便秘気味ではあったようです。

大学病院が公開している報告書によると、
いつ頃からかは不明ですが、
増悪と軽快とを繰り返す腹痛と一時的な嘔吐を訴えて救急外来を受診、
お腹の診察所見ではそれほどの重症感はなく、
血液検査では白血球がやや低下していて、
脱水傾向はあったものの、炎症反応は陰性だったと記載されています。
その時のレントゲンの所見は、
その時点では便秘のみで問題なしとされましたが、
患者さんが亡くなられた後の検討では、
腸管の穿孔を疑う所見の1つである、
「フリーエアー」が疑われた、とされています。

この時の担当医は便秘による腹痛を疑い、
浣腸を施行しました。
少し反応便はあったものの、
症状はあまり変化なく、
患者さんは一旦帰宅し、
その翌早朝に急変されています。

僕は実はこれに似た事例を卒業後1年くらいの時期に、
市中病院で経験しています。
便秘による腹痛と思われた高齢の患者さんで、
看護婦(こうした表記の頃です)さんに浣腸を指示したところ、
トイレで体調不良になりそのまま入院となりました。
診断は確定ではありませんが、
特発性の大腸穿孔でその日のうちに緊急手術になりました。
幸いその後の経過は良好で回復されました。

「馬鹿何やってる。動脈硬化のありそうな年寄の便秘に、
浣腸なんか不用意に掛けたら駄目に決まってるだろう」
当時の外科医に、
こう叱られたことは今でもよく覚えています。
通常のグリセリン浣腸の液量は成人で120ミリリットルですが、
高齢者ではその半量の60ミリリットルしか、
決して使ってはいけない、
ということもその時に強く指導されました。

浣腸は肛門から近い場所の圧力を高める行為なので、
その場所に不幸にして脆い粘膜や病変が存在すれば、
大腸穿孔のきっかけとなることは、
想定が出来ることろです。

ただ、文献を検索しても、
自分で無理に浣腸をしたり、
特別な目的で特殊な浣腸をしたりして、
そのために穿孔した事例の報告はあっても、
便秘で通常に浣腸を施行して、
そのために腸穿孔を来した、
というような報告にはあまり行き当たりません。

今回の事例の場合、
詳細に最初のレントゲン写真を見ると、
「フリーエアー」が認められた、ということなので、
これを確実な所見と取れば、
受診された時点で既に穿孔が起こっていたのであり、
浣腸は病状を悪化させた可能性はあっても、
その原因では有り得ない、
というのが大学病院の報告書の見解です。

フリーエアーというのは、
通常はガス像の見られない筈の場所に、
空気のような所見の見えるもので、
これは腸管の中に留まっている筈のガスが、
お腹の中に漏れ出している、ということを示しています。

このレントゲン写真は公開されていないので、
何とも言えないのですが、
浣腸の行為の是非は、
レントゲンのフリーエアーの有無で、
その様相をかなり変える性質のものです。
その所見が「専門医が後から検討して疑われる」というレベル、
というニュアンスのものなので、
非常に微妙なのです。
大学病院の報告書は、
その辺りの事実関係の推測に、
ちょっと強引な部分があるように、
僕には思えました。

ただ、これは微妙な問題ですし、
門外漢が推測で物を言うべきことではないので、
ここまでにしておきます。

症例報告がされているような特発性大腸穿孔の事例は、
敗血症の所見があったり、
ショック状態に近かったり、
腹痛が重篤で下血もあったりと、
誰でも重症と疑えるような所見のものが殆どです。

ただ、実際にはそれほどの症状に見えないのに、
実際には重症、というケースが稀に存在するのです。

僕なりに考えるポイントとしては、
症状の持続の長さがどうか、
という点があります。

上記の大学病院の事例は、
その点が敢えてぼかされているのか、
非常に不明瞭なのですが、
良くなったり悪くなったりを繰り返し、
という意味合いのことが書かれているので、
実際には経過は結構長かったのではないか、
と思われます。

僕が経験した事例も、
腹痛自体は1週間ほど前からは持続しており、
それでいてお腹を触ってもそれほどの所見がなく…
というような経過でした。

原因が便秘であっても、
それに伴う腹痛が長く続いている場合には、
不用意な浣腸の指示は危険だと思います。

また、特に動脈硬化性疾患が既に存在していたり、
そのリスクの高い高齢の患者さんでは、
腸管の一部に脆い部分が存在する可能性を考え、
これも不用意に腸管の圧力を増すような処置は危険だと思います。

ご高齢の方の腹痛というのは曲者で、
腸管穿孔ではありませんが、
腸閉塞の重症の事例で、
それほど強い症状のない方もいました。

高齢者の便秘ほど怖いものはない、
というのが僕の今の実感で、
医療者はそれでも乏しい情報の中から、
重症化に繋がり易い兆候を、
「疑ってかかる」以外に方法はないのかも知れません。

今日は大腸穿孔を僕なりに考えました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 9

midori

他人事ではありません。
私はストレスで腸が動かなくなってしまう体質で、
腹部・腰部の激痛と高熱に襲われることがあります。
「レントゲンも撮ったけど、白血球も高いんだけど、
 よくわかんないから、とりあえず、おなか開けましょう」
と言われたこともあります。
(怖くて逃げましたが、その後は運良く事なきを得ました)
そのうち先生にお世話になるかもしれません、
どうか宜しくお願い致します。
by midori (2011-09-29 09:14) 

fujiki

midori さんへ
コメントありがとうございます。
お腹の痛みは、
原因不明のことが結構多く、
困りますね。
勿論いつでもお出で下さい。
by fujiki (2011-09-30 07:46) 

ゆみ

はじめまして。
お聞きしたいのですが、83歳の父親が膀胱がんによる尿管ステント交換の為5日間の入院をしました。

ところが翌日退院という時に、元々便秘症だった父が下剤を頼んだらしく、ドクターによるとレシカル座薬をやった後大量の便をして、その後位から様子ずおかしくなり(この次点ではまだ家族には知らされてなく詳しい事はわかりません)翌日のお昼頃、血圧低下、意識不明、お腹が膨れていて本人は呻き声をあげていました。

そして、その二日後に亡くなりました。

退院出来る程元気だったのに何故急に危篤状態になるのか納得がいきません。
その後、担当医に話を聞きに行っても「原因がわからない」の一点張りで、どうしても父の死に納得が行かないままです。

この文章で何か少しでもわかったらご回答頂ければと思っています。
よろしくお願いします。

私としては、素人考えですが腸閉塞又は下剤による腸穿孔を起こしたのではないかと思って相談させて頂きました。
by ゆみ (2011-11-08 17:40) 

fujiki

ゆみさんへ
お父様のご不幸大変ショックなことと思います。
お腹に処置をしている状態で、
腸閉塞が何らかの形で関与していることは、
可能性が高そうに思います。
通常レシカルボンの座薬で、
腸閉塞の生じた事例の報告は、
僕の知る限りではないと思います。
浣腸は腹圧を上げるので、
ある程度のリスクはあると考えますが、
実際にはあまりそうした事例の報告もないようです。
by fujiki (2011-11-12 08:41) 

ちえり

はじめまして!先日勤め先で気になる事があり調べていたところ、こちらのブログにたどり着きました。素人にも大変分かりやすく、勉強になりました!そこで質問なのですが、穿孔は単純CTでは分からないものですか?座薬の鎮痛剤の使用で穿孔が広がる可能性はどうでしょうか?一概には言えないとは思うのですが、とても気になっているので教えていただけると嬉しいです!
by ちえり (2013-02-26 02:02) 

fujiki

ちえりさんへ
コメントありがとうございます。
炎症が周辺に及んだり、
腹水の貯留がないと、
単純CTでは難しいケースもあると思います。
座薬での悪化は可能性は否定出来ませんが、
明確な事例の報告はあまりないと思います。
by fujiki (2013-02-26 07:58) 

ヒロシ

最初に懇切丁寧な解説有難う御座います、良く解りましたお礼申し上げます。2年前に直腸癌を発症いたしまして、手術その後経過は良かったのですが、硬い粒状の便が続き、常に便秘気味でした。何度か執刀して頂いた先生に相談していましたが、特に大腸癌との関連は無いということで、そのままにしていたのです。9月の中ごろ酷い腹痛が起こり、深夜に緊急搬送ERにて緊急手術。直腸穿孔という診断で一月余り入院していました。今も一時的人工肛門で経過観察中です。どうしても便秘のときは息んでしまいますので、憩室が出来やすくなるのでしょうか?ERの医師は原因不明と仰っていましたが、それが原因でしょうか?穿孔が発症する一週間位前に便と共に鮮血の下血がありましたので、痔だと思い市販の痔疾患用の軟膏を使っていましたが、それの関連は無かったのでしょうか?解らないことがいっぱいですが・・・
本当に危ないところだったんだと、思い知らされています。有難う御座いました。
by ヒロシ (2014-11-20 16:00) 

fujiki

ヒロシさんへ
コメントありがとうございます。
早い回復をお祈ります。
これはあくまで推測ですが、
1週間前の鮮血は、
憩室からの出血だった可能性は、
あるように思います。
腹圧がかなりかかる部分があり、
それが要因となった可能性も、
あるように思います。
by fujiki (2014-11-22 08:13) 

似たような事がおきました。

初めまして、ひろしと申します。

記事とにたような事が起こりました。

医療の一般的なご意見を伺いたいです。
①一連の流れの中で、問題点はありますでしょうか?
②医師は、腹膜炎等の急性腹症を疑うべきだったのでは?
③主訴:腹痛なし。は問診が不十分ではないでしょうか?
④また、レントゲン・採血を実施してないのはいかがなものでしょうか?
⑤その他問題点はありますでしょうか?。

※あくまで、一般的な医療の意見としてお願いいたします。

2018年 2月4日(日)
以下、救急隊接触時データ
AM8:30
【事故・発症情報】
昨日の昼頃から、腹部全体の痛みがおき、症状が改善しないため、AM7:30頃、母親より電話連絡あり。8:20頃到着し、父親は腹痛にて動けないため救急要請した。

【状況・様態】
【意識】   清明
【呼吸】 18
【脈拍】 102
【体温】 37.2℃
【主訴】 腹痛
【表情】 正常
【顔色】 正常

【接触時】
  腹痛は腹部全体の刺すような持続痛と本人談。
  腹部圧痛:あり。  筋性防御:あり。  反跳痛:なし。
嘔気:なし。
2日前から、排便なし。下痢:なし。下血・血便:なし。
四肢運動知覚麻痺:なし。

【spO2測定一致一定】 100%

【血圧】 128/54

※ 最終医師引継ぎまで容態変化なし。

9:00 搬送先の病院に到着。

以下、カルテ内容(原本の写し)

9:05 BD 148/75
P:101
体温:37.1℃
SPo2:96%

9:10 最終医師の診断は、軽症 便秘

9:12 GE 60ml  反応便(-)
9:30 摘便 ➡ 便ふれず
9:45 顔色不良 SPo2 96%、P 96

排便難で QQ要請 嘔気、腹痛なし
摘便・GE実施するも便でず。

下剤処方し経過みてもらう。
(薬名:センノシド)

以上、カルテ内容のすべて

※ 医師の声・姿は見ていない。
看護師からの説明:便秘。便が上の方にあるため、下剤を飲んで降りて来るのを待つしかない。「こちらでは、これ以上何もすることはありません」。便が出なければ、明日の朝もう一度下剤を飲んで、それでもで排便がない場合また、診察にきてください。
との説明。

説明を聞いて、「本当に大丈夫なのですか?」と聞いたが、回答なし。

AM10:00頃
帰宅

AM10:10
センノシド服用。 朝からずっと腹痛は続いている。

PM6:30
父親 意識消失。(呼びかけ反応なし、失禁、よだれ、など)

すぐに救急車を要請。

PM6:40頃
救急救命センタ- 到着

PM7:30?
医師より説明を受ける。

大腸破裂による腹膜炎。その他心臓に詰まりあり。
腹膜炎は手術を進めないとのことで、断念する。

※朝から、意識を失うまで父親は、腹痛を訴えていた。

翌日
AM10:50
死亡

死因: 敗血性ショック(大腸破裂。原因不詳) 
    ➡ 死亡診断書による。

                   以 上


by 似たような事がおきました。 (2018-04-08 07:44) 

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