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放射線恐怖症を考える [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から紹介状など書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

文部科学省のお役人様が、
その配下の放射線安全教の信者の方を動員して、
したためられた文書が、
ネットで公開されて一部で話題になっています。

その中に次のようなニュアンスの記載があります。

風評などで放射線が怖いと思い過ぎると、
精神的に不安定になり、
そのことで却って体調を崩してしまうことがあるので、
行政の「正しい」見解だけを信じて、
放射線を怖がらず、
そうした病気に罹らないようにしましょう、
と言うのです。

言われることは分かります。
ただ、「お前が言うなよ!」という思いに駆られて、
思わず物でも投げたくなるような気分になることも事実です。

あの震災以降、
精神的にバランスを崩された方が多いことは、
僕も現実の診療の中で体験しています。

ある引きこもり気味の20代の男性は、
毎日テレビやインターネットで、
放射能が東京にも来るぞ(実際にはもう来た後だったのですが)
という内容が頻繁に流されるのを聞いてその影響を受け、
ある日の夜「放射能が怖い!」と叫びながら外に裸で飛び出し、
両親に止められて精神科に緊急入院となりました。

抗精神病薬を注射されて個室に管理され、
入院は2週間に及びました。
今は退院して投薬を受けながら療養中です。

端的に言えばこの方は、
統合失調症の初期の状態だったのです。

統合失調症は、
概ね本人にとっての耐え難いストレスを契機に発症します。

彼が引きこもりになったのは、
その予兆を感じ、
ストレスから逃れるために、
過保護な両親の守る「城」の中に避難したのです。

しかし、そうした城壁は、
全ての災厄を遠ざけてくれるものではありません。
ポーの「赤き死の仮面」の物語のように、
どんなに伝染病を恐れて引きこもっていても、
内なる感受性を封印することは出来ず、
それが外の疫病を結果的に呼び込むことになるのです。

そのきっかけが彼の場合、
放射線への恐怖だったのだと思います。

あるIT企業にお勤めの男性は、
原発事故後どうしても出社することが出来ず、
自分でも表現のしようのない、
漠然とした不安に駆られて、
殆ど24時間ネットで放射線に関する情報を、
見続ける生活を続けました。

僕と彼の上司の説得により、
郷里の中国地方に戻ると、
その症状は速やかに改善し、
1ヶ月後からは東京に戻って、
普通に激務をこなしています。

こうした普段は何ともなく社会に適合しているのに、
急に過剰に放射能を恐れ、
地震を恐れ、
日常生活の維持が困難になる人は、
ある意味やや過剰に社会に適応している性格の方に、
多いように思われます。

彼らは社会の空気に依存して、
そこに自分の存在を従属させることによって、
仕事の高いパフォーマンスを維持しているので、
社会が不安定になったような状況では、
そのことに過剰に反応して、
通常の自分の生活が脅かされてしまうのです。

こうした方には転地療法以外には道はなく、
またそれが非常に有効なのです。

お子さんをお持ちのお母さんは、
お子さんを守ろうという強い思いから、
放射線のお子さんへの被ばくを激しく怖れ、
時にそれに押し潰されて、
不安の発作を起こしたり、
夜一睡も出来なくなったりします。

この場合はお母さんに出来ることと出来ないことを、
現実的かつ具体的に整理すること、
そして情報の出処を幾つかに決めて、
それ以外からの情報にいちいち惑わされないこと、
こうした対応によりお母さんのご不安は、
かなりの部分で軽減するのではないかと僕は思います。

「ただ安全だ」と言うだけでは、
不安の解消にはならないのです。
日常生活が過度に制限されない範囲で、
何が出来るのかを具体的に考えることが、
むしろ必要なのではないかと僕は思います。

ただ、それでもご不安が強ければ、
矢張り転地療法が最適かも知れません。

東京でそうしたご不安を感じる方は、
放射能のことも勿論あるのですが、
むしろ停電や節電による影響が、
より大きいのではないか、
というのが僕の感想です。

パニック障害をお持ちの方は、
いつもより街や職場が暗いだけで、
不安は醸成され発作が誘発されるのです。

節電も勿論重要なことですが、
過度の暗さは気分にも大きな影響を与え、
多くの方を不安に陥れるものだ、
という点にはもう少し配慮が必要なのではないかと思います。

僕が今日言いたいことは
「放射線恐怖症」というのは、
確かに存在するけれど、
それは一絡げに表現するような事項ではなく、
あくまで個別に対応するべき事象であり、
個々に別箇の対応が必要な微妙なものなので、
それをお役人様が風評被害のように言うのは、
100年後の歴史書の記述ならば良いですが、
今まさに起こっている事象、
そうしたことで多くの方が精神の均衡を乱している現状を考えると、
あまりに配慮に欠けた、
冷酷な分析にように思える、
ということです。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 19

詩人の血

中世の修道僧の合言葉「メメントモリ」
日蓮の警句に「生死只今」
みんな腹が決まればいいんですけど…
by 詩人の血 (2011-05-20 09:07) 

midori

35年前に、こんな歌を作って歌った23歳の暗い若者がいました。
「そして とらわれの貧しいこの国
 顔背けて犯してきた誤ちの償いを
 すべての空へ すべての人の上にへと
 子供等の明日を巻きこんで」
いま彼は大御所ですが、売れなかったデビューアルバムに入っているこの曲を
今でもライブで歌います。静かに、怒りと祈りを込めて。
by midori (2011-05-20 10:17) 

hanabi

都内に住む知人女性の方がかなり気にされていて、「最近ここが痛いのだけど放射能のせいじゃないかと思って・・・」と事あるごとに口にされてるのですが、一応否定はしますが私も根拠があって言ってるわけではなく、気にしすぎとも言えないでいます。
by hanabi (2011-05-20 19:41) 

a-silk

安全と言うお役人や専門家さん、それに安全教信者様達には、転地療法として原発周辺の空っぽの家を借りて住んでもらいましょう。

隣町の茶葉から基準値以上のセシウムが検出されました。
葉に付着したというより、根から吸収したらしいという報道でした。
ジャガイモ・枝豆・なす・キュウリなどなど、これからはすべて付着ではなく、吸収した放射線が問題になりますね。







by a-silk (2011-05-20 20:41) 

北の人

鉄道や電気の復旧が地方より早かった東京で、ネットやテレビ漬けで心の病って、原発が実現してくれていた電気の豊富な社会に適応しすぎてますよね。皮肉なことです。
by 北の人 (2011-05-21 05:35) 

とも

毎日拝読させて頂いております。

本日はまさに私の状態のような方が多いことを
知り、随分救われたような気が致しました。

震災以来、放射能、地震に怯え、子供を持つ母親として
子供の前では怯えた様子は見せれず、過度の掃除、
選択、そして食材選びに奔走し、パニック状態になっておりました。
周りの人々は‘関東は大丈夫だよ’と口々に言っており、
周囲との温度差にも随分悩まされておりました。

先生のブログを読んでいると、とても勉強になると同時に
癒されます。
すばらしいお医者様がいらっしゃるのですね。
お医者様の鏡のような方だなぁと毎日思っております。
これからもどうぞ、色々な情報を発信なさって下さいませ。
心より、感謝申し上げます。
by とも (2011-05-21 07:10) 

fujiki

詩人の血さんへ
コメントありがとうございます。
今回のことが、
みんなで腹を括るような機会になれば良いと思うのですが、
どうも今のところはその様子はありませんね。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-05-21 08:22) 

fujiki

midori さんへ
コメントありがとうございます。
その歌は知りません。
今度教えて下さい。
by fujiki (2011-05-21 08:23) 

fujiki

hanabi さんへ
コメントありがとうございます。
その辺の考え方は非常に難しいですね。
by fujiki (2011-05-21 08:25) 

fujiki

a-silk さんへ
コメントありがとうございます。
残念ながら微量の汚染は今後もしばらくは続きそうですね。
本体が早く安心出来る状態になって欲しいのですが…
by fujiki (2011-05-21 08:26) 

fujiki

北の人さんへ
コメントありがとうございます。
半端に余裕がある分、
不安が強いのかも知れません。
by fujiki (2011-05-21 08:28) 

fujiki

ともさんへ
過分なお言葉ありがとうございます。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-05-21 08:28) 

つつ

先生、いつも読まさせて頂き、安心を得ております。

まさに、先生が言っている男性のように、自分自身もネット漬けで不安に駆られ、今は横浜に住んでいますが、西日本への転職を考え始めました。

放射線恐怖症にかられ、毎日マスクをして出勤。
服装もなるべく肌を露出しないように。雨になんて絶対あたらないよう気をつけ、あたったとしたら、すぐに洗ってます。
家の中を常に拭き掃除。ベランダもタワシで洗い、3月11日以降に着てたコートはすべて捨てました。

昼食を食べる際は、レストランの人に産地を聞き、スーパーに行っては肉・魚・野菜・卵・入飲料などすべての産地をチェック。
横浜の給食に福島・関東の食材が使われてるので横浜市へ抗議し、川崎市に瓦礫を持ってくる時には、川崎市長に苦情を申し立て、
頭がおかしくなりそうです。
精神安定剤を飲もうかと思ってるくらいです。

そして、放射線測定器を購入しようと思ってます。
自分の目で、自分の周り、自分の食べるものを計測し確認しないと、被曝恐怖症から逃れられなさそうなので。

そこで、先生おススメの放射線測定器があれば教えてください。
お願いします。
by つつ (2011-05-22 22:10) 

midori

先生こんばんわ。興味もってくださって嬉しい♪
『とらわれの貧しい心で』という歌です。
私もつい最近(震災後に)詳しく知ったのですが、
歌詞もさることながら、曲も心に染み入るような旋律です。
一昨年のライブより。
http://www.youtube.com/watch?v=17JjE6HOG8A&feature=related
by midori (2011-05-22 22:28) 

fujiki

つつさんへ
コメントありがとうございます。
申し訳ありません。
その辺の情報はあまり持ち合わせがありません。
現時点でそれほど意味合いが大きい、
とは思いませんし、
もう少し経つと情報も価格も安定してくると思うので、
それからでも良いのではないかと、
個人的には思います。
by fujiki (2011-05-23 08:12) 

科学が好きな者

> 放射線恐怖症を考える

お久しぶりです。

最近、ふと疑問に思った点でご存知であればお教え下さい。

それは、ある方(ご存知と思います。あえて伏字です。)の
「放射線に安全値はありません」との考えです。
(もちろん、事故や被曝を正当化するつもりはありません。)

「マイナスに過敏に反応している面は無いか?」との点です。

はじめに、下記はあっておりますでしょうか?
[a]アルファ線は、ベータ線やガンマ線より透過力が弱い。
[b]ガンマ線(X線)は、アルファ線やベータ線より透過力が
  強いため、レントゲンやCTに利用される。
[c]これらの線より、怖いのは、中性子線。


S氏の下記リンクのUstreamを見ました。
ttp://www.ustream.tv/recorded/13453891

下記が疑問でした。

[1]「ヨウ素は非常に揮発性」の旨があるが、
融点113.75 ℃, 沸点184.25 ℃より
「非常に揮発性」との表現は適切ではないと考えられる。

[2]Ustreamの最後に、「医療被曝と比較にならない」の旨があったが、
「1mSv/年とCT 10mSvは、どちらがリスクが高いか?」を考えると、
一定量の人間の自然治癒力(DNAの修復能力)より、一瞬で
被曝するCTの方がリスクが高いとも考えられる。
どちらも、(線種などは異なるが)放射線を被曝することには
変わりないし、CTを受ける患者の大部分がそのリスクを
認識して受診しているとも考えられない。
今回の原発事故で、一般的には内部被曝が話題になる感があるが、
JOC事故で亡くなった方は、内部被曝で亡くなっていないと
考えられる。

[3]逆に、CTの10mSvで大きく問題でなければ、1mSv/年も
同様に大きく問題ではないとも考えられる。

[4]プルトニウムの毒性に関しては、Wikiを見ても、
過剰摂取の放射線被曝により毒性であり、アルファ線自体の
透過力は弱い(首都圏などでプルトニウムは検出されていないはず)。

[5]閾値説及び直線モデルの正当性議論は別にして、
S氏は「閾値の問題」としているが、「0mSvから閾値までの
分からない範囲」に、「危険である」「安全ではない」と
する統計などの根拠を示していないとも考えられる。
科学的には「分からないことは分からない」が適切で、
点線を引くことが適切と考えられる。

[6]「放射線に安全値はない」であれば、日本より放射線量が
高い香港で、平均寿命などに差異が出ると考えられるが、
実際は日本と香港の平均寿命は同様で、世界のトップクラスである。
さらに、福島県より明らかに放射線量が高い宇宙空間
(1mSv/h程度の模様)は, かなり危険であると考えられるが、
高齢の宇宙飛行士でガンで亡くなった方を見つけられない。
(それより、事故で亡くなった方が圧倒的に多い。)


もちろん、劣化ウラン弾やチェルノブイリのマイナス面も
知っています。
同様に、大人より子供のリスクを, 首都圏より福島県のリスクを
下げるでしょう。

用心すべきですが、ある方の「放射線に安全値はありません」
との考えに同調している人の一部に、科学的・統計的判断ではなく
感情的に反応している面を感じるのは、私の勘違いでしょうか?

残念ながら、現実として、(原発同様に)CTなどの放射線医療に
ネガティブな考えを持つ人は出るでしょう。
その様な人は、そのリスクより、身の回りに
リスクが高いことがあることはご存知かは不明です。

私も冷酷かもしれません。
「この世で、完全に安全であることは、
あまり無い」のが私見です。
完全なる安全 ⇒ 完全なる停止、それは…。

by 科学が好きな者 (2011-06-01 01:36) 

fujiki

科学が好きな者さんへ
コメントありがとうございます。
僕も基本的には「放射線に安全域はない」と思います。
ただ、被ばく量が少なければ、
その影響は他の色々な環境の悪影響の中に、
まぎれてしまうことも確かだと思います。
また、人間は常に一定の放射線の被ばくを常に受けつつ、
その生存を続けて来たので、
生体には防御の仕組みが発達していることも事実だと思います。

今回の問題は多分に政治的で、
しかも人間の感情に根差した部分を多く持っています。
「自分が穢れてしまった」
というような、精神的な側面もあると思います。

人間は自然の一部であり、
環境と相互に係わり合いながら、
生きている生き物だと思います。
本来はなかった筈の放射性物質の身体への侵入が、
人災によって起こり、
その影響を受けざるを得ない、
という現実は、
それが実際には大きな影響はないと分かっていても、
僕も心情的には受け入れ難い思いがします。

放射線の害を強調される立場の方の意見には、
かなり非科学的な部分が、
特に最近は多くみられるようになりましたが、
ある種のガス抜きの面もあるのではないか、
とも思います。

CTを含む医療放射線の被ばくについては、
僕は日本の状況はあまりに被ばくに対して鈍感で、
本来はもっと慎重であるべきではないかと思います。

あまりお答えになっていないと思うのですが、
今考えていることはそういうことです。
by fujiki (2011-06-01 10:59) 

かなぶん

質問させて下さい。特定の恐怖症は、認知及び行動療法の他、3環系抗うつ剤、モノアミン酸化酵素阻害薬、及びβブロッカーなどの薬物で軽快するとある医療系サイトで学んだのですが、先生はどの治療方法が一番いいと思われますか?
by かなぶん (2014-01-29 22:17) 

fujiki

かなぶんさんへ
これはかなり個人差が大きいので、
一概には言えないと思います。
使用機会がそれほど多くないと思いますが、
3環系抗うつ剤の有効性を示す報告は、
多いと思います。
by fujiki (2014-01-30 08:10) 

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