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タバコと放射能は比較出来るのか? [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日で午後は休診です。
朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

タバコを1日1~9本長期間吸い続けると、
その肺癌のリスクは3.4Svの被爆量に相当する、
という一種の警句のようなものが、
あちこちで引用されています。

これを引用される方には、
所謂「放射線安全教」の信者の方が、
多く含まれていて、
その教義の洗脳のために、
使用されているケースがあるようです。

3.4Sv(シーベルト)と言えば、
物凄い被爆量です。
3400mSvであり、3400000μSvです。
レントゲン写真1枚分が
(いい加減この比較にはうんざりですが、
便宜上仕方がありません)
20~50μSvですから、
その被爆量の大きさが窺えます。

この比較は要するに、
放射線を浴びると癌が増える癌が増えると、
放射能を殊更に大袈裟に言う奴らは唱えるけれど、
その癌が増えるということの実態は、
この程度のものなんだぞ、
タバコ数本と同程度のものを、
お前らは怖れているのだ、
ざまあみろ、
というニュアンスなのだと思います。

僕がこの警句を読んでまず思ったのは、
放射能の影響とタバコの害とを、
比較することなど出来るのだろうか、
出来るとすれば、
どのような文脈で、
そうした比較が行なわれたのだろうか、
ということです。

それで元ネタと思われるサイトを見てみました。

それは放射線医療についてのサイトで、
放射線医療の専門家が、
どちらかと言えば、
放射線は怖くないですよ、
こんなに有用性があり、
医療の現場で使われているんですから、
という内容を伝えたいがために、
Q&A形式で、
記載されているようなサイトでした。

その趣旨は、
放射能を怖がる患者さんに対して、
必要な治療を受けさせるために、
どのように説明すれば有効か、
というような視点で書かれています。
ちょっと意地の悪い言い方をすれば、
「放射線安全教」の信者による、
「患者さん洗脳マニュアル」です。

そのQ&Aの1つに、
このタバコと放射能との比較があるのです。

内容は確かにその通りです。

タバコを1日1~9本吸うだけで、
長期的にはその肺癌を増やすリスクは、
1回の外部被爆で算定すると、
3.4Svに匹敵する、
という意味合いのことが書かれています。
ただ、長期間の喫煙と言うだけで、
積算の本数が何本以上、
というような比較の根本になるデータは、
何処にも書かれていません。
その意味では、
科学者と称する方が書いた割には、
かなり杜撰な内容です。

海外文献が引用されていたので、
その内容を読んでみました。

そこにも、
確かにそれに類することが書かれています。

ただ、そのニュアンスは大分違います。

内容は広島の原爆とタバコを比較したようなものではありません。

あくまで肺癌の発症のリスクを分析したものです。

肺癌のリスクとして、
一番大きなものが喫煙であることは、
皆さんもよく御存知のことかと思います。
ただ、その一方で、
天然の放射線であるウランの鉱山で、
長く働いていた鉱山労働者において、
肺癌のリスクが高まることが、
最近指摘されるようになりました。

問題になるのは、
労働者が吸入する放射性ラドン222で、
ラドンは吸入により、
気道に沈着し、
そこで放射線を出すことで、
肺癌の誘因になると考えられています。

自然放射線はラドン温泉などもあるように、
低線量の被爆であれば、
むしろ健康に良く、
痛みを緩和し免疫力を高めて、
癌の発症も減らす、という報告もあります。
(これをホルミシス効果と呼びますね)

その真偽は微妙なところがありますが、
僕は少なくとも疼痛の緩和等については、
有効性はあると思います。

ただ、問題はラドンを吸入することで、
その量は比較的微量であっても、
気道の障害が持続することにより、
肺癌の発症に結び付く、
と現在では考えられています。

そのラドンの発癌効果と、
最も肺癌のリスクを高めるタバコの影響とを、
比較検討したのが、
論文の本来の趣旨なのです。

甲状腺癌と放射性ヨードの問題でも分かるように、
放射線と発癌との関連は、
局所への沈着による内部被曝の影響が、
大きな役割を占めており、
それを単純に外部被爆の実効線量に換算することは、
あまり意味のないことであることが分かります。

確かに1回の外部被爆の線量に換算すれば、
3.4Svの被爆線量が、
少量のタバコによる長期間の影響と、
肺癌の発症のみにおいては、
同一の相対危険度を示すかも知れません。

ただ、それはどういう被曝の仕方をしたのかに、
大きな影響を受ける事項なので、
単純な比較は意味を成さないのです。

一方でこうした文献もあります。
ラドン鉱山の労働者を、
タバコを吸う人とそうでない人とに分けて分析したところ、
肺癌のリスクにおいて、
タバコの上乗せ効果が認められなかった、
というものです。

つまりこうしたデータは、
数字の遊びのような面があるのです。

長期間の喫煙というのは、
実際には30年以上のことです。
すると、積算の本数は毎日1本で10950本、
1日9本で98550本です。
同じことを言うのでも、
1日1~9本のタバコと3.4Svの被爆が同じだ、
と言うのと、
1万本以上のタバコを吸うことは、
3.4Svの外部被爆に相当する肺癌のリスク因子である、
と言うのとでは、
聞いた方の受ける印象は天と地ほど違うでしょう。

要するにこの警句のトリックは、
そういうことです。

肺癌のリスク因子として、
ラドンの被曝とタバコの影響とを、
比較検討することには確かに意味がありますが、
それはタバコと放射線の外部被爆量とを比較して、
ほら放射能の影響なんて大したことはない、
ということを言うためのデータではないのです。
両方とも重要なリスクであり、
極力取り除くように努力するべきだ、
と言う意味合いなのです。

ただ、言えることもあります。

短期間で比較的大きな量の外部被曝をしても、
それほど将来的な癌のリスクが、
増加することはないのです。

問題はその核子の性質と、
内部被曝の形態にあり、
それによっては比較的少量の被曝量でも、
それが長期間積み重なることにより、
特定の癌の発癌因子になるのです。
その意味合いは、
タバコの害に似ているのですが、
タバコのように自らの意志で、
そのリスクを減らすことは難しいのです。

「放射線安全教」が、
決してカルトだとは僕は思いません。
一般の方の放射線に対する、
無用な不安を煽らない、というその意義も分かります。
ただ、禁煙の方法を指導するように、
少しの放射線でも危険な場合はある、
という知識、
不要な放射線は極力浴びないようにするための知識も、
同じように必要なことではないでしょうか?
そのご神体の安全性を強調するあまり、
そうした点についての知識の流布が、
あの宗教の信者の方には、
やや欠けているように思うのです。

深刻な放射線被爆の危機に瀕している現在、
安全だとか危険だとかと言う神学論争ではなく、
もう少し具体的な放射線防護の議論に、
軸足を移すべきではないでしょうか。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 7

midori

チェルノブイリの1/10もの放射線が出ていたのなら、
震災から1週間の間に少しでも手を打っておけばよかったと、
昨夜はかなり悔やみました。
by midori (2011-04-13 09:34) 

takeshi6925

本当にタバコ1本(1回ぽっきり)だとどうなのでしょう?
http://www.oit.ac.jp/env/cardamom/~wastcoex/6_Risk_Percept_Accept/6_Risk_Percept_Accept.htm
わが国ではタバコ1本あたり損失余命3~7.6分。放射線については、ICRPに従って1mSv=10万人中5.7人致死相当とすると、これは中西準子氏等の換算では約5.7×66分の損失余命に相当します。
『タバコ1本 = 実効線量0.008~0.02mSv』
ってとこでしょうか。ここに被ばくの仕方や核種による補正がかかり、また、子供ほど放射線影響を受けやすいので本当は右辺はもっと小さくなるでしょう。発がん率のみに注目するならさらに桁が下がりそうです。

規制値100倍レベルのC-137混入作物も出てましたが、仮にそのレベルの葉でタバコを作ればセシウムのリスクがタバコ自体のリスクと比べて無視できなくなりそうですね(笑・・・いごとじゃない)
by takeshi6925 (2011-04-13 17:46) 

fujiki

midori さんへ
ただ、確かに粘って少なくしているのは、
事実だとは思います。
あまりお気に病み過ぎないで下さい。
再度の大量の飛散がないように、
本当に祈りたい気分です。
by fujiki (2011-04-13 21:53) 

fujiki

takeshi6925 さんへ
いつも興味深い資料を、
ありがとうございます。

そうですね。
タバコ1本が胸のレントゲン写真1枚分弱、
と考えると、
その対比には非常に納得がいきます。
そのくらいが現実ではないでしょうか。
でも、放射線安全教の先生は、
その比較はお気には召さないと思います。
「今日はタバコ1本節約しよう。胸の写真を健診で撮ったからね」
何て言われたら気分を害するのではないでしょうか。

冗談はともかく、
本当に早く終息して欲しいものです。
by fujiki (2011-04-13 22:06) 

ごぶりん

何だか、このような比較そのものが本当に馬鹿らしいですね。
会社で動物実験をやっていた際、それらの実験動物は全く同じ遺伝子型だったにも拘わらず個々のデータはかなりばらつきがありました。
ましてや、ヒトは遺伝子型が違うのだから(表現が不適切だったらすみません)、同年齢、同病歴の2人が同じ量の放射線を浴びてもその影響に違いがあるのだろうし、放射線とたばこを比較することで放射能漏れを擁護するのは片腹痛いです。
recipiencyの違い(チロシンキナーゼ阻害剤などでは遺伝子型から判断可能となっていますが)が全ての薬剤や外部からの悪影響によってできる指標があれば動物実験の数を減らせるのにと思います。

農家の方々のために風評被害を抑えるということであれば、通常農作物に使用されている農薬、除草剤、土地改良剤との比較の方がいいと思います。

ホルミシスはホメオパシーのことでしょうか?
by ごぶりん (2011-04-13 22:36) 

fujiki

ごぶりんさんへ
コメントありがとうございます。
小さなお子さんへの放射線の影響など、
データの取りようもない訳で、
あらゆる影響を残さない、
という責任が大人には必要なのではないかと思います。
大人は現状であれば、
福島の産品をドシドシ食べることが、
むしろ必要なことではないかと考えます。

ホルミシス効果は、
ホメオパシーとは別物で、
閾値以下のレベルの放射線は、
むしろ身体に良い影響が多い、
という考え方のことです。
一時は多くの文献があり、
ラドン温泉の効能書きなどは、
その理論を元にしています。
by fujiki (2011-04-14 06:16) 

midori

お気遣いありがとうございます。恐れ入ります。
今バタバタしてまして、なかなか伺えないんですけれど、
GWの頃にと考えております。
宜しくお願いいたします。
by midori (2011-04-14 10:02) 

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