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等価線量と実効線量の違いについて [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から変にハイテンションになって、
妙に早く起きてしまいました。

それで今日はいつもより、
早い更新になります。

さっそく今日の話題です。

先日の記事で、
あるご質問がありました。

小さいお子さんの場合、
たとえば数日前に東京都で検出された、
1リットル当たり210ベクレルの放射性ヨード131が含まれた水道水を飲むと、
どれだけの被曝量になるのか、
というものです。

その方が調べた資料では、
ある大学の先生が、
幼児の甲状腺の等価線量に関わる線量係数は、
1.5×10-6(10のマイナス6乗です)(Sv/Bq)
と書かれていた、と言うのです。

その一方で、
同じ幼児の実効線量に関わる線量係数は、
ある資料によれば、
7.5×10-8(10のマイナス8乗です)(Sv/Bq)
と書かれています。

これは全身に与える影響の筈ですが、
その換算係数は、
甲状腺単独のものより、
丁度20倍の差のある数値です。

つまり甲状腺への影響は、
全身の20倍もある、
ということになってしまいます。

恐ろしいことに、
この大学の先生が引用した数値をそのまま用いると、
行政の発表した数値の、
実は20倍も幼児は甲状腺に被曝することになります。

計算上この水を1リットル飲むと、
お子さんは甲状腺に315μSvの被曝をすることになり、
毎日そのペースで飲み続けると、
一応の基準値の10mSvはおろか、
1年以内に積算で人体に害のあるとされる100mSvを超えてしまいます。

何故このような違いが生じるのでしょうか?

これは実は実効線量と等価線量という、
言葉の違いによります。

等価線量というのは、
たとえば1ベクレルの放射性ヨードに被曝したとすると、
その放射線のエネルギーが、
1キログラム当たり、
ある組織にどれだけの影響を与えるか、
ということを示した数値です。
元の単位はジュール/キログラムです。
この数値は吸収線量×放射線荷重係数で、
算出されます。

従って、
甲状腺の等価線量というのは、
甲状腺の組織1キログラム当たりに、
その人が被曝した放射能が、
どれだけの影響を与えるか、
ということを示す数値、
ということになります。

放射線の甲状腺に対する影響のみを考える場合には、
この数値で議論すれば良いのです。

ただ、放射線は勿論、
甲状腺のみに影響を与える訳ではありません。

1ベクレルの放射能に被曝した時、
個々の組織の放射線の影響を、
それぞれ足し合わせた数値が、
全身の放射線に対する影響、
ということになります。

これが実効線量という概念です。

ただ、個々の組織の等価線量をそのまま加算すれば、
それは当然全体の被曝量を超えます。
等価線量という概念は、
その放射線が甲状腺なら甲状腺のみに影響を与える、
と仮定した場合の数値だからです。
従って、個々の臓器の放射線への影響の受け方を、
重み付けして、
それを合算して全身の被曝量になる、
という計算を考えます。

この時の重み付けの数値が、
組織加重係数です。

実効線量は等価線量×組織荷重係数です。

そして、甲状腺の組織荷重係数は、
0.05なので、
実効線量は甲状腺の等価線量の、
丁度20分の1になっているのです。

従って、大学の先生の出したデータは、
間違いのある数字ではないのですが、
問題になるのは実効線量なので、
甲状腺の等価線量を示すのは、
ちょっと趣旨が違うのです。

現状で議論している被曝量は、
内部被曝の場合、
あくまで預託実効線量、という数値であるからです。

ただ、皆さんはここでちょっと不思議に思われると思います。

放射線は全身に影響を与える筈なのに、
全身の実効線量は甲状腺の等価線量の丁度20分の1です。
つまり、ヨード131の場合、
全身の被曝量はすべて甲状腺の被曝量と同一と仮定されている訳です。

要するにこれはかなり荒っぽい計算です。

更には甲状腺への移行は、
体液中に入った放射線の2割であると仮定した数値だ、
という但し書きが付いています。

つまり、昨日ヨードシンチの話をしましたが、
この実効線量の換算係数は、
甲状腺に集まるヨードが、
全ヨードの2割であると仮定しての数値なのです。

昨日の記事で触れましたように、
甲状腺にどれだけのヨードが集まるのかは、
その人の甲状腺の状態と、
その時身体にヨードが足りているかどうかによって、
実際には大きく変化します。

原因は分かりませんが、
単純性甲状腺腫では、
24時間で摂取されたヨードの6割が甲状腺に吸収される場合があり、
そうした体質の人の被曝量は、
実際には通常の換算量の3倍になるのです。

それでは今日のまとめです。

放射性ヨードの場合、
その人体への影響は、
通常の計算では甲状腺への影響とイコールで考えて良いのです。
全身の被曝線量が100mSvなら、
甲状腺の被爆線量も100mSvです。
本当はそうでもないのでしょうが、
計算はそういう計算なのです。
しかも、計算の根拠は、
血液中に入ったヨードのうち、
2割が甲状腺に取り込まれることを、
その算定の根拠にしています。
しかし、実際にはその取り込みは、
ヨードシンチのデータを見ても、
かなりの幅があり、
従って甲状腺の被爆線量も、
その幅の範囲で考える必要性があるのです。

最後に幼児と乳児の、
放射性ヨード131に関する、
経口での内部被曝の換算係数を記します。
これは実効預託線量の換算に用いるもので、
甲状腺の被曝量とイコールと考えて良く、
その前提は総量の2割が甲状腺に取り込まれる、
というものです。
幼児で7.5×10-8(10のマイナス8乗です)(Sv/Bq)
乳児で1.4×10-7(10のマイナス7乗です)(Sv/Bq)
です。
これは日本で発表されているもので、
ICRPの数値とは別物です。

先日テレビに出演された専門家の先生が、
ヨード131の210ベクレルは4.62マイクロシーベルト、
という換算式を出していましたが、
これは成人の被曝線量です。
議論されていたのは乳児ですから、
本来は乳児の換算を用い、
29.4マイクロシーベルトと言うのがより正しいのです。
つまり、乳児は成人の6倍以上多く被曝するのです。
子供を守らなければいけない、
というのはまさにそういう意味です。

乳児の基準値100ベクレルというのは、
この水1リットルを毎日飲むと、
1年365日で、
14×365=5110マイクロシーベルト、
すなわち1年の預託実効線量が、
10mSvの半分になる、
という意味です。

専門家の発言と言うのがどのレベルのものか、
この一事をもっても、
何となく透けて見えるような気がします。

それでは今日はこのくらいで。

今日こそ、今日こそ、
良い知らせが福島から届けられますように。

石原がお送りしました。

(付記)
現行報道されている数値には、
ちょっと混乱があります。
甲状腺の発癌等への影響、
またヨード剤配布の基準となる線量は、
預託実効線量ではなく、
甲状腺の等価線量です。
つまり、全身の影響として考えれば、
預託実効線量を用いればよいのですが、
甲状腺のへの影響に関して、
特にお子さんの甲状腺への影響に関して論じる場合には、
甲状腺の等価線量を用いる必要があります。
上記の記事のその点に関しての記載は、
不充分なものなので、
3月30日の記事を、
あわせてお読み頂ければ幸いです。
(2011年3月31日補足しました)

(付記)
コメントでご指摘頂きましたが、
ICRPpub103(2007)では甲状腺の組織加重係数を、
0.04としており、
行政の最近の資料は、
それを元にしています。
ただ、これまでの文献の多くは、
0.05で計算されており、
換算係数も多くは0.05で計算されています。
2007年にいっせいに変更されたのであれば、
そうなっている筈で、
何となく裏の意図があるのかな、
と思わなくもありません。
記事の最初に取り上げた大学の先生の資料も、
御用学者の資料も、
少なくとも3月22日頃には、
殆ど0.05で計算されていた筈です。
今それが全て変更されているのかどうかは、
ちょっと分かりません。
(4月6日補足しました)

(付記)
コメントでご指摘を受け、
等価線量と実効線量との違いについての記述を、
かなり書き改めました。
(2011年4月6日午後7時修正)
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コメント 17

stranger

ググっていてたどり着きました。どうも始めましてです^^

甲状腺への吸収量に個人差が大きいこと、大変参考になりました。ありがとうございます。
場合によっては60%も吸収してしまうのですね。甲状腺の病気を患っていない平均的な一般人の場合はどうなのでしょう。それでも、平均をとる意味がないほどばらつきが大きいので
しょうか。。。


それと、全体の趣旨には関係ない細かいところですが、

>甲状腺の組織荷重係数は、
>0.05なので、
>実効線量は甲状腺の等価線量の、
>丁度20分の1になっているのです。

甲状腺の組織加重係数0.05というのは、人体の全身を1としたときの係数ではないでしょうか。そうであれば、甲状腺の等価線量ではなく全身の等価線量が正しいような気がします。

↓のレポートにある4ページ目の表2:ICRPが勧告した組織加重係数の一覧ですが、

http://homepage3.nifty.com/anshin-kagaku/hobutsu2007_yoshizawa.pdf

1990年勧告で、全身を1としたなかで甲状腺を0.05と設定しています。
by stranger (2011-03-26 08:56) 

fujiki

stranger さんへ
ご指摘ありがとうございます。
なるほどそうですね。
それは誤解をしていました。
全身に影響した放射線のうち、
20分の1が甲状腺に影響を与える、
という意味合いですね。
うまく修正出来れば修正します。

日本人の場合、
通常ヨードが過剰摂取気味になっているので、
2割は吸収されず、
せいぜい1割程度ではないか、
というのが僕の推測です。
by fujiki (2011-03-26 09:02) 

通りすがり改め勉強の身

fujiki様

今回、僕の質問に焦点を当てていただき誠にありがとうございます。緊急時マニュアルにある甲状腺における変換係数で求められる等価線量が、そのまま組織に影響を与える放射線量であると思い込んでいたため、自分の計算値が出た時はかなり焦ってしまいました。

また、テレビに出てくる専門家の計算方法がわからないまま値を示されていたため、自分では納得がいかなかった部分があったのですが、今回の解説のおかげで不安を和らげることが出来ました。

本当にありがとうございます。

ひとつ、お詫び申し上げなければならないことがあります。それはこのブログに誤ったニュアンスで情報を提示してしまったことです。

その先生は、ほうれん草で放射性物質を検出した際、その資料を提示してくれたのみに留まり、その資料内の全身における被爆線量の変換係数を用いて計算していました。

しかし、僕が資料を見てヨウ素131の甲状腺における等価線量の変換係数があるのでそちらで計算しました。ヨウ素は甲状腺に集まるという情報と、ヨウ素のみ甲状腺における変換係数があること、実効線量に対する言及が今までなかったことにより誤った理解をしたためです。

24-25日未明にその先生は
>もし210Bq/Lが長期間続くと仮定し、成人でがこの水を毎日1リットル飲むとすると、約1年間飲み続けた場合に1ミリシーベルトに達します。本来は、ヨウ素は「崩壊」によってどんどん減っていくので、実際はもっと少ない被ばく量になります。
と述べていました。

慎重に情報を待ちながら、もう少し言葉を選び詳しく正確にお伝えすれば良かったと反省しております。

大変申し訳ありませんでした。
by 通りすがり改め勉強の身 (2011-03-26 20:17) 

fujiki

勉強の身さんへ
コメントありがとうございます。
お気にされないで下さい。
僕もご質問を受けて非常に勉強になりましたし、
僕の計算が正しいとは限りません。
ただ、その先生が実際にそう言われたとすれば、
210ベクレルの水1リットルを1年飲むとして、
成人なら4.62×365=1.686mSvで、
これは預託実効線量ですから、
その後の崩壊による減衰を、
当然考慮した値になり、
「実際はもっと少ない」
という言い方は、
言葉は悪いですが、
デタラメの嘘っぱちです。
勿論これが幼児や乳児なら、
その線量はもっと多くなるのです。
by fujiki (2011-03-26 21:14) 

okusan

初めまして。
実は私も上の方と同じ間違いをしており、影響を20倍大きく見積もっていました。このブログを見なかったら、大変な間違いを広めるところでした。一言御礼申し上げたく、書き込んだ次第です。
詳しいご解説をありがとうございました。

by okusan (2011-03-26 22:47) 

fujiki

okusan さんへ
コメントありがとうございます。
拙文が少しでもご参考になれば幸いです。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2011-03-27 09:39) 

Y.Fukasawa

ありがとうございます。勉強になりました。
by Y.Fukasawa (2011-03-29 14:31) 

アミノさん

等価線量となんとか実効線量がよくわかりましたですw
参考になりましたサンキューです!
by アミノさん (2011-04-02 00:05) 

fujiki

Y.Fukushima さんへ
ありがとうございます。
ちょっとこの記事は、
甲状腺等価線量の意味合いを、
軽く書き過ぎたような気がします。
4月1日の記事も、
併せてお読み頂ければ幸いです。
by fujiki (2011-04-02 06:26) 

fujiki

アミノさんへ
コメントありがとうございます。
よろしければ、
4月1日の記事も、
併せてお読み頂ければ幸いです。
by fujiki (2011-04-02 06:27) 

シンチしてるものです

甲状腺の組織荷重係数は今確か0.04に変更したはずです
by シンチしてるものです (2011-04-06 01:43) 

fujiki

シンチしているものです…さんへ
コメントありがとうございます。
ICRPpub103 (2007)に記載されている、
甲状腺の組織加重係数が、
0.04になっているので、
確かに3月28日の「放射性物質に関する緊急取りまとめ」
の資料には0.04で計算されています。
(計算というほどのものはありませんが…)
ただ、文献の多くは行政のものを含めて、
0.05で計算されています。
多くの方が使われている換算係数も、
多くは0.05で計算されたものです。
2007年以降いっせいに改定された、
というようなことはないようです。
議論の叩き台になっている資料も、
多くは改定はされていません。
ただ、あまり本質的な差異のあるものではない、
というのが僕の考えです。
by fujiki (2011-04-06 06:29) 

真鶴

ぶしつけながら不正確なところがございます。
実効線量は全身の被曝に関する線量ですが、以下ですと、甲状腺が受けた放射線のうちで実際に吸収された部分だけを評価した線量のように読めてしまいます。
>その通りに組織が放射線を吸収する訳ではありません。

>それで、実際に吸収されることが推測される被曝量を、
>実効線量という値で表すのです。

各組織・臓器ごとに放射線の影響を受ける度合い(=組織荷重係数)が異なります。これを考慮して、体全体の被曝量を算出したものを実効線量と言います。

それとともに全体の理解もまた変わってきますが、それについてはさらに申し上げるまでもなくお分かりになるかと存じますので失礼します。
by 真鶴 (2011-04-06 17:42) 

fujiki

真鶴さんへ
ご指摘ありがとうございます。
当初からご指摘を受けていた点なのですが、
うまく修正が出来ずにそのままになっていました。
一応僕の理解の中で、
より正確と思われる表現に、
書き改めました。

ただ、実効線量は本来は、
個々の組織の等価線量を、
重み付けをして足し合わせたものの筈ですが、
放射性ヨードの実効線量は、
実際には甲状腺の等価線量×組織加重係数と、
ほぼイコールで議論されていると思います。
by fujiki (2011-04-06 19:48) 

ただの

>ただ、その先生が実際にそう言われたとすれば、
>210ベクレルの水1リットルを1年飲むとして、
>成人なら4.62×365=1.686mSvで、
>これは預託実効線量ですから、
>その後の崩壊による減衰を、
>当然考慮した値になり、
>「実際はもっと少ない」
>という言い方は、
>言葉は悪いですが、
>デタラメの嘘っぱちです。

これは酷い。2行目から既に破綻してます。
ヨウ素の半減期の早さからして、「210ベクレルの水を1年間飲むとして」という前提自体が「実際」を無視しています。
勿論210ベクレルの水を生成し続けるだけのヨウ素が原発から漏出し続けられれば別ですが、
現にそうなっていませんよね?

by ただの (2011-04-10 01:52) 

ただの

ちょっと訂正

×>勿論210ベクレルの水を生成し続けるだけのヨウ素が
○>勿論210ベクレルの水を生成し続けるだけの放射性物質が
もっと正確にはSv単位で同等である必要があるけど。
by ただの (2011-04-10 01:59) 

fujiki

ただのさんへ
コメント欄まで詳細にお読み頂き、
ありがとうございます。

ご指摘の点はその通りで、
僕の発言は210ベクレルの放射性ヨードを含む水を、
毎日飲み続けた場合、
という純粋な仮定の話です。

一方実際にその先生が言われていたのは、
一旦210ベクレルの放射性ヨードが混入した水を、
毎日飲み続けた場合、
という話で、
その場合は翌日飲んだ水の放射能は、
半減期8日で減衰するので、
初日の91.8%になり、
その翌日は84.2%になる、
という意味合いだと思います。

コメントを書いた時点では、
僕はその点を理解していませんでした。

お詫びして訂正させて頂きます。
あと、今読むと表現が過激ですね。
申し訳ありませんでした。
当時の僕の危機感がそうさせたものとご理解頂ければ、
と思います。

ただ、事故以来、
3月15日と22日には、
かなりの量の放射性物質が、
東京にも降り注いでおり、
その後も放出が、
完全に止まった訳ではありません。
その状況で、
1回限りの放射能の飛散の影響による、
被曝量の計算を披露されても、
聞いている側は混乱することは事実です。

また、半減期が8日の放射性物質の影響を議論するのに、
「この水を1年飲んでも…」
というのはそもそも誤解を招く言い方だと思います。
1ヶ月もあれば殆ど無視出来る程度に減衰するのですから、
そういう説明であるべきで、
その表現を聞くと、
無知な側は同じ放射線量を、
毎日被曝した場合、
と誤解しても仕方がないのではないでしょうか?

この点については、
また補足の記事を書きたいと思います。

ご指摘ありがとうございました。
当該のコメントはその時の本音として、
僕としてはそのままにしておきたいのですが、
ご不快に思われるようでしたら削除したいと思います。

本当に一刻も早く事故が終息することを、
1人の無知な素人として、
祈りたいと思います。
by fujiki (2011-04-10 08:29) 

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