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脳梗塞の急性期治療を考える [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から健診結果の整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は脳梗塞にまつわる、ちょっとした話です。

診療所に胃潰瘍で受診されていた、
ある患者さんが突然のめまいの発作を起こし、
救急車で近隣の病院に運ばれました。

症状の経過からは脳梗塞が疑われたため、
すぐにCTの検査がされましたが、
まだ脳梗塞ははっきり画像には現われません。
患者さんは入院となり、
その翌日にMRI の検査が行なわれました。
その病院にはMRI の設備がないので、
近隣の画像診断のクリニックで撮影をしました。
その画像がこれです。
左小脳梗塞最初2.jpg
これは脳の下の方、小脳の部分の断面の画像です。
赤い矢印より下の部分が、
白くなっているのが分かりますね。
これが小脳に起こった脳梗塞です。

では次を。
左小脳梗塞最初拡散.jpg
矢張り同じように赤い矢印より下が、
白く映っています。
これは1枚目の画像とは違う撮影法で、
「拡散強調画像」と言います。
この所見は急性期の梗塞であることを示しています。

つまり、この方のめまいの症状は、
左の小脳に起こった、脳梗塞による症状だったのです。

この病院では、血栓を溶かすような急性期治療を、
行なってはいませんでした。

それで、ラジカット(一般名エダラボン)と呼ばれる、
脳組織を保護する効果のある、
注射薬による治療が行なわれました。
入院している患者さんの場合、
概ね2週間、この薬の注射が継続されます。

2週間の治療後、
患者さんのめまい自体には、
大きな変化はありませんでしたが、
急性期は脱した、と言う判断で、患者さんは退院となりました。
患者さんはその後の治療を診療所で希望されたため、
病院からの紹介状を持って、
その足で診療所を受診されました。

紹介状には入院からの経過と、
今後の方針として、
プラビックスという薬を、
継続して使用して様子を診て欲しい、
と書かれてありました。
プラビックス(一般名クロピドグレル)は抗血小板剤と言って、
血栓が出来るのを予防する薬です。
要するに血を固まり難くする薬です。

僕はラジカット使用後に、
脳梗塞の状態はどうなったのか、
紹介状には書いていなかったので、
患者さんに尋ねました。
すると、脳の画像の検査をしたのは、
入院2日後が最後だ、
というびっくりするような話です。

それで、すぐに近隣の画像診断専門のクリニックで、
MRI の再検査を依頼しました。
その画像がこれです。
小脳出血1.jpg
一見最初の画像と似ていますが、
赤い矢印の先を見て下さい。
白い領域の中に、黒い部分が見えますね。
これは最初の画像にはなかった変化です。

これは何でしょうか?

これは実は出血です。
脳梗塞の中に、後から出血が起こっているのです。
こうした変化を「出血性梗塞」と言って、
血の塊が急に血管に詰まった時に、
多く見られる変化です。
出血が正確にいつ起こったものかは分かりませんが、
まだ出血からそれほど時間が経っていないことは確かです。

出血が不安定な時期に、
プラビックスのような血を固め難くする薬を使うのは、
あまり適切な方針とは思えません。

それで僕は患者さんとも相談の上、
別の病院の脳神経外科に、
患者さんをご紹介しました。
その結果勿論プラビックスは中止となったのです。

出血性梗塞の治療は、
非常に難しい面があり、
プラビックスのような抗凝固剤を、
敢えて使用するようなケースもあります。
しかし、脳梗塞の急性期には、
当然出血は起こり得るのですから、
治療開始時に1回の検査だけで、
その後画像の検査をせずに、
治療薬の選択をするというのは、
言語道断のように僕には思えます。

脳梗塞の急性期治療は、
すぐ専門医のいる病院で、
とよく言われますが、
現実には救急車を呼んでも、
症状が軽そうだ、という判断があると、
近隣の中小の病院に有無を言わさず運ばれ、
やや粗雑な治療が行なわれるケースが、
実際には結構あります。

問題は脳梗塞が疑われれば、
原則入院で様子を診る必要があるにも拘らず、
専門医のいる病院に片端から電話をしても、
「ベットの用意が出来ない」という理由で、
断わられることが非常に多いということです。
よくテレビに出演されて、
「些細な症状でも重症になることがあるので、
ただちに脳神経外科の専門医のいる病院を受診して下さい。
数時間の遅れが命取りになることがあるのですよ」
と言われている先生のいる病院でも、
実際に電話をしてみればそんな具合です。
メディアでのご発言は一般論であり、
悪く言えばただの奇麗事に過ぎないのです。

従って、結果的に専門医はおらず、
急性期の血栓溶解療法も出来ず、
MRI もない、という病院に、
軽症と見做される患者さんは運ばれることになります。

これが心筋梗塞であれば、
受け入れの態勢は遥かに整っており、
2箇所の病院に連絡を取れば、
ほぼ100%受け入れが可能で、
「ベットがない」と言われることもそうはありません。

どうも脳梗塞の急性期治療には、
色々な面で問題があるように、
僕には思えてなりません。

脳卒中はこれだけ多い病気であり、
いつ何時起こるとも限りません。
その上、症状から診断は比較的容易で、
治療は早期に開始する必要性が高い病気です。

であるなら、もっと専用の窓口を設け、
救急隊や診療所の医者が、
何軒もの病院に電話をして「ベットがない」
と断わられ続けて時間を浪費するような、
患者さんにとって不幸な事態を、
極力減らすような対応が望まれるのではないでしょうか?
仮に専門医のいる病院が受け入れ困難で、
専門医のいない病院で診療が行なわれるとすれば、
速やかに専門医にコンサルトしつつ、
診療を連携して行なうような、
システムの構築が必要ではないでしょうか?
一方では200年に一度の洪水に対応する、
堤防の工事をするような、
行政の過剰とも言える対応があるのですから、
万一の脳卒中に備える対応も、
同じように必要なのではないか、と僕は思います。
でも、現実にはそれは医療現場に丸投げされ、
スムースには運んでいません。

たらいまわしの問題は、
大雑把に議論しても仕方がなく、
個別の病気に具体化した形で、
個別に詰めてゆくべきではないかと僕は思います。
産科の救急もそうですが、
脳卒中の救急にも、
そうした観点での検討が必要だという気がします。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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MDISATOH

興味深い記事です!!

画像診断の詳細は、中々説明される事は少ないので、為になります。
CTとMRI画像で何が解るのか具体的に解説してくれて嬉しいです。

心筋梗塞に比べて脳卒中の緊急医療体制が整っていない現実
と医療システムの構築が必要で有ると言う指摘ごもっともで、
国の抜本的な対応を望むものです。
by MDISATOH (2010-04-10 09:54) 

みぃ

正直、昔は大学病院のような大きな病院には、必ず全ての科に、専門医がいらっしゃるものと思っていました。 実際は、そうでは無くなって来ていた現実に、驚かされています。
私が長男を産んだ大和市立病院にも、たくさんいらっしゃった産婦人科の先生もいなくなり、産婦人科は無くなっていたようです。(昨年、地方から二人程、獲得したとニュースで聞きましたが・・・。)
脳梗塞も同じなのですね。
具体的には、どうやって政府を動かしていけるか・・・と言う事なのでしょうか?
by みぃ (2010-04-10 14:01) 

ide

もしも全ての人の健康管理が完璧であり、どのように経過をたどるのか予定されていれば緊急医療は必要ないのですけど、
まして難病や終末期なんて、死なせてしまったという罪悪感を負いたくないし、避けたくなるのが人情ですよね。
それに立ち向かっていける人はほんとに偉いと思います。
高度に細分化された技術なのでチームでないと今の先端医療は実行できない現実なので専門家に頼りたくなります。
私も父を在宅で看取ることなく病院にお願いしてしまいました。
今はベット数が少なすぎますよね、どこも入院待ちばかりです。
by ide (2010-04-11 00:36) 

fujiki

MDISATOH さんへ
コメントありがとうございます。

画像の話もまた取り上げたいと思います。
これからもよろしくお願いします。
by fujiki (2010-04-11 11:21) 

fujiki

みぃさんへ
コメントありがとうございます。

必ずしも専門医がそれほど沢山いなくても良いのでは、
と僕は思います。
問題は一般の医者とどのように連携と取りつつ、
診療のレベルを維持するか、
ということなのではないかと思います。
by fujiki (2010-04-11 11:23) 

fujiki

ideさんへ
コメントありがとうございます。

ベットの少なさは確実に行政の責任です。
猫の目のように変わる方針で現場を混乱させつつ、
医療費抑制として、
病院を縮小させたのです。
by fujiki (2010-04-11 11:25) 

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