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長時間作用型β2選択的刺激剤の話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は喘息の薬の大きな柱の1つである、
β2選択的刺激剤の功罪についての話です。

β2刺激剤という薬は、
古くから喘息の治療の中心的役割を、
担ってきた薬です。

ちょっと歴史を紐解きましょう。

1901年に副腎の髄質という部分から、
「アドレナリン」という物質が分離されました。
それがその後、交感神経の末端から分泌される、
神経伝達物質とほぼ同じものであることが分かり、
それは「ノルアドレナリン」と名付けられました。

この「アドレナリン」には、
血圧を上げたり、脈拍を上げたりする作用と共に、
強力な「気管支拡張作用」があることが明らかになりました。

喘息というのは気道が何らかの原因で、
アレルギー性の炎症を起こし、
主にエンドセリンという物質が、
過剰に産生されることで、
気道にある平滑筋という筋肉が収縮し、
気道が細くなって呼吸困難の症状を起こします。

この気道の平滑筋は、
アドレナリンの働きで拡張し、
その働きが妨害されると収縮します。

アドレナリンはホルモンですから、
受容体という鍵穴にくっついて、
その作用を表わします。

その受容体にはαとβという2種類があり、
そのうちのβは更にβ1とβ2とβ3とに分類されます。

α受容体は主に血管に働いて、
その筋肉を収縮させ、
血管を縮める働きがあります。
β1受容体は主に心臓に働いて、
心臓の働きを強め、脈を上げます。
その一方で、β2受容体は、
心臓にはあまり存在せず、
主に血管や気管支の筋肉にあって、
そこにアドレナリンがくっつくと、
平滑筋がぎゅっと広がります。

喘息発作の時に、発作を止めるために吸入をしますね。

この吸入薬の主な成分は、
β2選択的刺激剤です。
つまりこの薬を使うと、
その成分が気管支の平滑筋にある、
β2受容体にアドレナリンの代わりにくっついて、
その作用を現わし、気管支を広げるのです。
更には気管支の粘膜の充血を抑える働きもあるので、
その相乗効果で肺活量は増大します。

このタイプの薬は1960年代から使用が開始され、
その効果は絶大で、
多くの喘息患者さんの命を救いました。
これを短時間作用型β2選択的刺激剤
(short-acting β2-agonists;SABA)
と呼んでいます。

現在使われている薬では、
商品名でメプチンエアやサルタノールインヘラなどが、
それに当たります。

ところが…

1980年代になると、
この薬を常時使用している患者さんで、
喘息死の増加が報告されて、
大きな問題となりました。

喘息は苦しい病気です。
発作の時に吸入をすると、
発作が速やかに改善するので、
患者さんの身体はそれを覚えてしまい、
次第にちょっとした発作や、
それほどの症状でない時にも、
不安になって「何となく」吸入薬を使用するようになります。
つまり、吸入薬に依存するようになる訳です。

この薬はあくまで短時間作用型なので、
吸入をすれば症状は改善しますが、
1時間もすればその効果はなくなってしまいます。

医者の側にも、それならば定期的に1日何回か、
吸入を繰り返した方が良いのでは、
という考え方があり、毎日定期的に吸入をするような、
そうした処方も行なわれるようになりました。

その結果として、どういうことが起こったでしょうか?

β2選択的刺激剤とは言っても、
完全にβ2受容体のみに作用する訳ではありません。
実際には若干のβ1刺激作用も存在するのです。
このことにより、
心臓が刺激され、脈が早くなり動悸がして、
そのことが心臓に負担を掛けます。

喘息の状態が悪いということは、
充分な酸素が身体に行き渡っていない、
ということであり、
その状態が続けば、当然心臓にも負担が掛かります。
その状況で心臓に更に負担を掛ける薬を使えば、
それがきっかけとなって、
心臓死を来たすことは可能性としては考えられる訳です。

問題のもう1つはこの薬を常時使っていると、
くっつくβ2受容体の数が減ってくる場合がある、
ということです。
これを受容体のdown regulation と呼んでいます。
受容体の数が減れば、
当然その効果も減弱します。
また、常時連用していると、
気道の過敏性が亢進し、
却って気道が狭くなり易くなる、
という指摘もされています。
この薬は強引かつ一時的に気管支を広げているので、
その効果が切れた時の気管支の収縮は、
それを使う前よりも、
むしろ強くなることがあるのです。

従ってこの薬は、
喘息の急性発作の時のみ使用し、
それ以外の時期には、
極力他の予防薬で、
喘息発作の予防に努めなければいけません。

この短時間作用型β2選択的刺激剤の欠点を、
解消する目的で開発された薬剤が、
長時間作用型β2選択的刺激剤
(long-acting β2 agonists ;LABA)
です。

この薬は1回吸入すると、
12時間以上その効果が続くようなタイプの、
気管支拡張剤です。
日本では、サルメテロール(商品名セレベント)
のみが使われています。

サルメテロールは、
β2受容体の「部分作動薬」です。
この意味合いは、
たとえ気管支にある全てのβ2受容体に、
この薬がくっついたとしても、
完全には気管支が拡張はしない、
ということです。
つまり目一杯の拡張はせず、
じんわりと気管支を広げます。

このため継続して使っても、
効きが悪くなることもなく、
拡張した後に急激に収縮する、
といったことも少ないと考えられます。
また、心臓への負担も少ないと想定されます。
ただ、それでも長期間使用していれば、
受容体の数が減少する点は一緒なので、
長期使用の安全性には、
疑問符の付く点は残るのです。

さて、喘息とは気道のアレルギー性の炎症であり、
その治療の基本は、その炎症を抑えることです。
その目的で最も有効性の高い薬剤は、
言わずと知れたステロイドです。
この中でも副作用が少ない、
吸入ステロイドが、
喘息の基本薬であることは間違いがありません。

ただ、ストロイドには炎症を抑える働きはあっても、
気管支を広げる働きはないため、
ステロイドの吸入だけで、
喘息のコントロールが困難な場合には、
長時間作用型β2選択的刺激剤を、
一緒に使うのが合理的な治療の考え方だ、
とされています。

1999年から2000年くらいに掛けて、
吸入ステロイドを増量するのと、
増量せずに長時間作用型β2選択的刺激剤を一緒に使うのと、
どちらがより喘息の患者さんにメリットがあるのかを、
検討した結果が報告され、
肺機能や症状改善の面で、
気管支拡張剤を一緒に使った方が良い、
という結論が出たのです。

その結果を受けて、吸入ステロイドと気管支拡張剤の合剤が、
広く使用されるようになりました。

商品名ではアドエアとシムビコートと呼ばれる薬がそれです。

さて、長時間作用型β2選択的刺激剤は、
喘息死や心臓死を増やすような副作用はないと、
長く信じられて来ました。

しかし、2004年に行なわれた大規模臨床試験において、
この薬剤の使用でも、
矢張り喘息死や喘息の重症発作が多くなる、
という衝撃的な結果が報告されました。

ただ、これはまあある意味では当然のことで、
長時間作用型であるとは言っても、
心臓に全く負担を掛けない訳ではありませんし、
長期間持続的に使用していれば、
気道の過敏性は亢進する可能性も、
当然考えられるのです。

問題のポイントは、
呼吸機能や症状の改善で薬の効果を判断すると、
気管支拡張剤である以上、
当然良い結果が出るということです。
それを長期間使用した時に、
どのような変化が気道に起こり、
そこにどのような危険性があるのか、
と言う点については、
相当の人数の患者さんを、
かなりの長期間観察しなければ、
簡単に結論の出せる事項ではないのです。

この点に、
喘息の薬の本当の有用性を判断することの、
難しさがあると、僕は思います。

さて、今までのところを纏めるとこうなります。

β2選択的刺激剤は、強力な気管支拡張作用を持ち、
喘息発作のコントロールに、
欠かすことの出来ない薬剤ですが、
常用的な長期間の使用では、
却って発作を起こり易くし、
時には喘息死を誘発するような危険性を孕んでいます。
その危険性は短時間作用型の方が強くはありますが、
長時間型でも皆無ではなく、
従ってその使用はなるべく短期間に留めるべきで、
漫然と続けるべき薬剤ではありません。

それでは、ステロイドと長時間作用型β2選択的刺激剤を、
一緒にした合剤の場合はどうなのでしょうか?

2008年頃の考え方としては、
合剤はそのお互いの短所を補う利点があるので、
一緒に使用する場合には、
薬剤による喘息の悪化や、
突然死、喘息死の増加はない、
というのが一般的見解でした。
それを検証した論文も、
幾つか発表されています。

こうした検証で難しいのは、
対象とする患者さん全体の中では、
不幸な転帰を取られる方は、
実際には極少数なので、
1つのデータだけで、
その死亡が薬によって影響されたものなのかどうかを、
統計的に示すのが困難だ、
という点にあります。

従って、例数を増やすために、
メタアナリシスと言って、
これまでに発表された多くのデータを集積し、
そこに一定の関連がないかどうかを検討する、
という方法が多く取られます。

ただ、この場合データの背景はまちまちなので、
果たして結論がただの統計のマジックではないのか、
という点については慎重な検討が必要だと僕は思います。

そして、つい先月のことですが、
吸入ステロイドを一緒に使っていても、
長時間作用型β2選択的刺激剤には、
喘息死を増やすリスクがある、
との結果が発表され、
これを元にアメリカのFDAは、
ステロイドとの合剤を含めた、
長時間作用型β2選択的刺激剤全般に、
その使用は極力短期間にとどめるように、
との警告を出したのです。

ちょっと長くなりましたので、
最近の動向については、
明日に続けたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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コメント 2

kakasisannpo

アドレナリンは今、ホルモンに分類されているのでしょうか?
by kakasisannpo (2010-03-11 12:08) 

fujiki

kakasisannpo さんへ
コメントありがとうございます。

副腎髄質で合成分泌される、
アドレナリン(エピネフリン)やノルアドレナリン(ノルエピネフリン)は、
血液中を流れ、標的臓器の受容体にくっついて、
その作用を現わすので、
ホルモンという言い方で問題はないと思います。

同じノルアドレナリンが神経終末から分泌される場合は、
神経伝達物質という言い方がされますが、
その両者の区分は、必ずしも明確ではないと思います。
by fujiki (2010-03-11 20:51) 

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