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食欲のメカニズムとグレリンの話 [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日はグレリンの話です。

グレリンとは何でしょうか?

食事を取らないで時間が経つと、
お腹が空いて、何か食べたいな、
と誰でも思いますよね。
それで食事にありついて、
充分に食べれば満腹感がありますし、
腹八分目の状態でも、
少なくともお腹が空いた、という気分はなくなりますね。

皆さんが毎日経験している、至極当たり前のことです。

しかし、何故こんなことが起こるのでしょうか?

少し前までの説明はこうです。

食事を取らない時間が長くなると、
血液の中のブドウ糖は低下します。
これを低血糖と言います。
低血糖になると身体は飢餓状態を察知して、
脂肪を分解してエネルギーを得ようとします。
すると分解された「遊離脂肪酸」が血液の中に増えます。
この遊離脂肪酸の上昇と血糖の低下が、
脳の摂食中枢を刺激し、
人はお腹が空いた、と感じるのです。
一方食事を取ると、血液の中のブドウ糖が上昇します。
それに反応して、膵臓からはブドウ糖を利用するホルモンである、
インスリンが分泌されます。
また、脂肪の細胞からは、「レプチン」というホルモンが出ます。
この2つのホルモンは、共に脳の摂食中枢
(満腹中枢と分けて説明される場合もあります)
を刺激して、人は満腹を感じ、
食べるのを止めるのです。

皆さんはこの説明に納得をされますか?

ぼおっと聞いていれば、
何となくもっともだな、と思いますよね。

でも、生理的には明らかに存在することでありながら、
この説明で意図的に排除されている要素があります。

それは食べ物の入る「胃」というものの存在です。

上の説明では、人が空腹を感じるのは、
低血糖と遊離脂肪酸の増加によっての筈です。
でも、それはいずれも飢餓状態での話です。
たとえば、あなたが朝ごはんを食べて、
お昼近くになれば、
「お腹が空いたな」と感じますよね。
少なくとも僕は感じます。
でも、その時に脳にアラームが流れるような、
低血糖の状態にあるでしょうか。
そんなことはない筈です。
また、その時点で脂肪が分解されて、
遊離脂肪酸が増えているでしょうか。
そんなこともない筈です。

つまり上の説明の「空腹」というのは、
脳に必要なブドウ糖が不足するような、
言わば身体にとっての緊急事態の話です。
それは確かにそうした事態になれば、
脳に信号が送られ、摂食中枢が刺激されるでしょう。
しかし、僕達の毎日の生活の中で、
それもこと食事に関しては世界でも恵まれた環境にある日本で、
そうそうそうしたことは起こらない筈です。

従って、上の説明は如何にももっともらしいのですが、
僕達の普段感じる通常の空腹感が、
何故生じるのか、という説明にはなっていないのです。

もっと素朴に考えてみましょう。

胃の中に食べ物がない状態が、
長く続けば、人は空腹を感じます。
何かを食べたいと思います。
それで胃の中にある程度以上の食べ物が入れば、
空腹感は消失し、食べたいと思う気持ちがなくなります。
この事実は、胃の中の状況が、
逐一脳に伝達され、
ある種の信号が、脳に空腹を感じさせたり、
それを消失させたりしていることを、
示しているのです。

素直に考えれば、当然そうなりますよね。

では何故上の説明では、
その胃の存在が無視されているのでしょうか?

それは胃から分泌されて脳に働くような、
食欲に関係する物質が、
つい最近まで見付かっていなかったからです。
見付からないものはないものと見做し無視する、
というのが、専門家という人種の、
もっと広く言えば人間というものの習性だからです。

しかし、素朴に考えれば、
当然そうした物質は存在しないといけないのです。

その胃と脳とを繋いでいる物質とは、
一体何でしょうか?

前置きが長くなりましたが、
それがグレリンです。

グレリン(Ghrelin )とは、
1999年に日本の研究者によって発見された、
胃から主に分泌され、
脳に働くホルモンの一種です。

グレリンは、
成長ホルモン分泌促進因子
(growth hormone-releasing peptide )
の略称です。

その名の通り、グレリンという物質は、
胃の粘膜から産生され、成長ホルモンを刺激する作用を持つ、
消化管ホルモンとして発見されました。

そして、その後の研究によって、
グレリンには成長ホルモンを刺激する以外にも、
多くの作用を持つことが次々と解明されたのです。

その第一が、最初に話題にした、食欲増進物質としての、
グレリンの働きです。
そう、グレリンは強力な食欲増進物質なのです。

そのメカニズムには不明の点もありますが、
グレリンは空腹時には上昇し、
胃の中にある程度食べ物が入ると、
速やかに減少します。
このグレリンは迷走神経という自律神経を刺激して、
その情報を脳の中脳に伝えます。
中脳からの情報は更にノルアドレナリンを介して、
視床下部に伝わるのです。
視床下部には摂食中枢があります。
つまり、お腹が空くと食べたくなるのは、
胃から出るグレリンが、
摂食中枢を刺激するからなのです。

グレリンにはその他に脂肪を増やし、
体重を増やす効果もあります。
正常な身体のバランスの状態では、
グレリンは肥満になると低下し、
やせると上昇します。
つまり体重を適正にするように調整が行なわれている訳です。
しかし、太り易い体質の人では、
何故か食後にもグレリンが低下せず、
このことが太り易い原因の1つとも考えられています。

ピロリ菌の除菌治療をすると、
体重が増加することの多いことが知られています。
除菌治療をされた方の多くが、
食欲が出るようになったと言われます。
これは除菌によって胃の粘膜の状態が改善し、
グレリンの産生が増えたためだと考えられているのです。

グレリンは成長ホルモンを刺激するので、
食欲を出すばかりでなく、
筋肉を増強したり、心臓を保護するような効果も期待されています。

このため、心不全や肺気腫といった病気で、
食欲が落ちるような病態に対して、
グレリンが薬として使えるのではないかという考えがあり、
現在治験の段階に入っているものもあるのです。

こうしたホルモンを薬として役立てようという話は、
今までにも沢山あり、
必ずしも良い結果に結び付いている訳ではありません。
ある薬剤は想定していたような効果がありませんでしたし、
予想外の副作用が出て、発売中止になった薬もありました。
ホルモンというのは微妙な調節を、
身体の中でしているのですが、
その調節までは薬としては再現出来ません。
従って、ある種大雑把な使い方をしても効果のあるホルモンであれば、
薬としても成立するのですが、
微妙な調節が必要なものは、
薬としては不向きな場合が多いのです。

このグレリンが薬として、
そのどちらになるかは、
まだ注意深く見守る段階にあると思います。

今日はグレリンという食欲増進ホルモンの話でした。

最後にもう1つだけ、
最初に触れた食欲のメカニズムの話を補足します。

何故ちょっと考えれば非現実的だと分かる、
食欲のメカニズムが正しいものとされてしまうかと言えば、
こうした研究は殆ど動物実験で行なわれているからです。
動物実験では極端な飢餓状態にしないと、
実験としてクリアな結果が出ません。
「お腹が空いた」というのは、
あくまで個人的な感情の世界です。
ネズミに「お腹が空いてますか?」
と聞く訳にはいかないからです。
従って、そもそも動物実験で、
こうしたメカニズムを検証するのは無理があるのです。
飢餓状態では何が起こるか、
という話を、強引に食欲全般の話に拡大するところに、
無理があるのではないかと僕は思います。

皆さんはどうお考えになりますか?

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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マックブライドみさお

はじめまして。
食欲増進のホルモンを検索している時に、六号通り診療所所長さんのブログにであいました。
食欲のわくしくみ、今まで信じられていた説と、現在の説、とてもわかりやすく、勉強になりました。

どうやったら食欲がわいてもりもり食べられるようになるだろう、と探している時に、とても分りやすい説明をいただき、お礼を伝えたくてコメントさせていたえだきました。

他の記事もいまから読ませていただきます。

by マックブライドみさお (2014-04-11 21:04) 

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