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「ヴォイス」の嘘 [悪口]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝からカルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

以前もちらっと取り上げたのですが、
少し前に終わったフジテレビの、
「ヴォイス」というドラマがありました。

大学病院の医学部の法医学ゼミの学生が、
解剖された不審死の事例を、
警察もどきに自分達で捜査する、
という非現実の極みのようなドラマです。

まあ、別に設定が非現実的でも、
ドラマなのですから、
そんなことは構わないのですが、
毎回出て来る医療情報が、
尋常ではないくらい誤りが多く、
昨日録画してあった後半をまとめ見したら、
あまりに酷い部分があったので、
今日は敢えてそれを取り上げます。
(放送は少し前なので、
何処か別のところでも、
問題にされているのかも知れません。
ただ、余りに酷過ぎるので、
書かずにはいられません)

ある回で、
ゼミの学生が焼死した男性の解剖を手伝います。
その時に男性の肝臓の一部を切り取って、
それをシャーレに入れて運ぶのですが、
その途中でシャーレを落として割ってしまい、
指を傷付けて出血します。
ところが、遺体の男性はB型肝炎に感染していたことが、
すぐに分かります。
「B型肝炎という死に至ることもある怖ろしい病気」
に感染してしまったのでは、
と学生は恐れおののき、
その当日に病院に入院して、
「謎の注射」をされ、
点滴を繋がれて数日入院します。
その当日か、もしくはそのせいぜい数日後に、
「感染しているかどうかを調べる」血液検査が施行され、
その結果が分かるのも、
その数日後のことだと説明されます。
その数日間に学生は苦悩し、
もう法医学も大学も辞めて、
田舎に帰って父親の歯科医を継ごう、
と決心します。
「気軽な気持ちで今まで解剖をしていたが、
今回の事故で、自分が死に直面して、
解剖の怖さが身に染みた」
と言うのです。
いよいよ結果の判明する日が来ます。
仲間は神社でお守りを買い、
感染がありませんように、
と願を掛けます。
結果は「セーフ」でした。
感染はなかったのです。
学生は小躍りして喜び、
「恐怖から開放された」と語り合って、
ラストになります。
おそらく、ハッピーエンドのつもりなのでしょう。

以上のあらすじだけで、
一体どれだけの間違いがあるでしょうか。
皆さんに計算してもらいたいくらいです。
これはひょっとしたら、ドラマに見せ掛けた、
間違い探しの啓蒙目的のクイズなのかも知れません。

まず、B型肝炎に対しての、
深刻な事実誤認があります。
B型肝炎のウイルスが血液から侵入したとして、
その人はすぐに肝炎になる訳ではありません。
通常早くて2ヶ月、場合によっては半年くらい経たないと、
肝炎に感染したのかどうかの診断は付かないのです。
ですから、血液に触れる事故があった場合、
通常すぐに行なう血液の検査は、
その時点で以前の感染がないかどうか、
他の原因での肝障害がないかどうか、
の確認のために行なうものです。
決してドラマにあるように、
数日で結果が出て大喜び出来るものではありません。

これがまず1つの嘘です。

次に通常医学部の学生は、
B型肝炎の抗体があるかどうかの検査をして、
免疫のない人はB型肝炎のワクチンを打っているのが、
常識的な理解です。
特に感染の可能性のある解剖の補助をするのであれば、
そうして感染防御しているのはイロハのイです。
もし仮にそうしたことすらしていなかったのなら、
問題に問われるのは大学の体質そのものです。

B型肝炎にはHBs抗体という、
治癒抗体が存在します。
ごく特殊な例外を除けば、
ワクチンでこのHBs抗体が陽性になっていれば、
B型肝炎には決してなりません。
その情報がこのドラマには微塵もなく、
B型肝炎が「防ぐことの出来ない悪魔の病気」、
のように扱われています。
これがまあ、第2の嘘です。

更には、B型肝炎の血液に接触したからといって、
その日に体調が悪くなることはありませんし、
入院して点滴するような必要性はありません。
もしこの学生のHBs抗体が陰性であれば、
接触から48時間以内に、
免疫グロブリンを注射し、
同時にワクチンの投与も行ないます。
この処置によって、100パーセントではないものの、
かなりの確率で感染は予防されるのです。
これが第3の嘘です。

まあ、こうして一々上げていけばきりがありません。
殆ど間違っていない部分がないのですから、
呆れて何も言いたくなくなります。

何よりも問題なのは、
予防法も治療法も存在し、
その一方で症状に苦しんでいる患者さんが多く存在する、
現実の病気を、
「死に至る悪魔の病」のように扱い、
それに感染していなかったことが分かると、
それが幸せであるかのように表現した、
異常な感覚と倫理観です。

このドラマの展開の流れでいくならば、
不幸にして学生は感染したことにして、
それでも前向きに治療もし、
医療も続けてゆく、
という設定にするべきです。

病気をテーマとして取り上げるのであれば、
それを「不幸を演出する道具」のように扱ってはいけません。

最後にこの番組には、
医療監修として錚々たる先生がクレジットされています。
この先生方は一体このような嘘を、
どういう感覚で監修されたのでしょうか。
こんな監修をされた先生に、
果たして責任はないのでしょうか。
罪はないのでしょうか。

こういうことこそ、
問題にされ、場合によっては、
罪に問われてしかるべきだと思いますが、
皆さんはどうお考えになりますか。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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A・ラファエル

私は何時からかテレビドラマが漫画と一緒になってしまった
という感触を持っています。
漫画はナンセンスとして堂々と嘘をつくことが
まかりとおっていますが、
テレビドラマや番組が同じレベルになってしまったように思うのです。
現在、私はテレビを持たない生活を何年もしています。
by A・ラファエル (2009-04-06 10:04) 

fujiki

A・ラファエルさんへ
そうですね。
見て文句を言ったりしていないで、
テレビなど見ないのが、
多分一番いいことだと思います。
by fujiki (2009-04-06 20:11) 

いまわの きぃ

私はHBe抗原+のいわゆるB型肝炎キャリヤです。家族のなかで私だけが、B型肝炎ウィルスを持っています。(当然父親も母親もウィルスを持っていませんので、垂直感染ではありません。)おそらくは幼児期の予防接種の際の注射針の使い回しでの感染です。(当時は、注射針の使い回しが普通だった。)私の前に同じ針で予防接種を受けた誰かがB型肝炎のウィルスを持っていたのでしょう。私は40歳を過ぎてセロコンバージョンを起こしていないので、治療をしない限りはこのままキャリアという形で、無発症で天寿を全うするか、肝硬変、肝がんになるか、いずれかです。私の、B型肝炎感染がわかったのは、18歳の時です。当時交際していた女性がいたので感染させてはいけないと、その女性にワクチンを打つように言いました。彼女が、東京にある某有名S医大付属病院に行きワクチンを打ってくれと言ったところ、なんと、、、『B型肝炎は性行為では感染しません。』と言われ追い返されてしまいました。
およそ二十年前の話です。当時としても、かなり勉強不足な医者だと思いますが、この言葉は、ある意味犯罪にも等しいと思います。実際、その医者の言葉を信じた彼女は6ヶ月後、B 型肝炎を発症、幸い劇症化しなかったので命には別状無く治癒しましたが、性行為で感染したのは間違いないでしょう。
その当時でも、医療関係者などが感染した可能性があれば、すぐにガンマグロブリンと、ワクチンを接種するのがセオリーだったと記憶しています。
未だに、この番組のような認識を持った医者がいるのかと思うとぞっとします。

テレビを見ない人は、それでいいかもしれませんが、この番組を見た人はどう思うのでしょう、B型肝炎患者のことを。

私は、20年以上もB型肝炎で医者にかかっています。以前は東京都では慢性肝炎は難病指定になっていましたが、他の都道府県では皆実費を払って病院にかかっていました。東京都でも慢性肝炎に対する医療費の補助も以前と変わっています。
2007年4月、やっとB型およびC型肝炎のインターフェロン治療に対する医療費助成制度ができました。
でもそれでもまだまだ、すべての治療法に助成があるわけではないので、高額な医療費を払っている患者は大勢いるはずです。

もう一度書きますが、私は幼児期に受けた予防接種の注射針から感染しました。

こんな番組があるから、、、こんな医者がいるから、、、
私は、知人に、職場で、友達に、大きな声で、「B型肝炎患者です。」といえません。








by いまわの きぃ (2009-04-20 23:22) 

fujiki

いまわのきぃさんへ
コメントありがとうございました。
お辛い経験をされたのですね。
ドラマなどの医療情報のレベルは、
全体としては上がっていると思うのですが、
時々こうしたびっくりするような事実誤認が平然と放送されるので、
慄然たる思いがします。
by fujiki (2009-04-21 06:20) 

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