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橋本病関連症例集 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から紹介状を書いて、
それから今PCに向かっています。

インフルエンザは徐々に流行って来ているようで、
診療所でも毎日1~3人程度の方から、
A型の陽性反応が出ています。
(最初の陽性者は、確か11月27日頃です)
急激な関節の痛みと寒気を伴う高熱が、
典型的ですが、
昼間はあまり熱が出ない方もいらっしゃいますし、
咳症状が前面に立ち、
違うかな、と思いながら、
念のために検査をしたら、陽性、
というケースもありました。
皆さんもご注意下さい。
下痢吐き気などのお腹の症状の出ている方には、
今のところ陽性者はいません。
現時点ではこの幡ヶ谷近辺では、
通常の立ち上がりで、
大流行という感じではありません。

それでは、今日の話題です。

今日は昨日に引き続き、
橋本病の事例をご紹介します。
検査の数値の意味合いについては、
昨日の記事をご覧下さい。

まず、割と典型的な橋本病の事例をお示しします。

患者さんは60代の女性です。
慢性関節リウマチで整形外科に受診中。
甲状腺の大きいことを指摘されて、
診療所を受診されました。

脈は遅くはなく、特にだるさやむくみような症状もありません。
むしろ活発でお元気な方です。

超音波検査では、甲状腺は中くらいに腫れていて、
中の状態はざらついた感じで、
橋本病が疑われました。

血液検査では、
T4 は3.0μg/dl と低下し、
TSH は145.8μIU/ml と上昇していました。
典型的な甲状腺機能低下症で、
TSH の100を超えているのは、
結構重症の部類です。
抗マイクロゾーム抗体は陽性で、
橋本病の確定例です。
リウマチとの合併も、
教科書通りですね。

重症の甲状腺機能低下症では、
ごく少量からホルモン剤を開始するのが原則です。
いきなり多くのホルモンを使うと、
弱った心臓が対応出来ず、
心臓の働きが悪くなったり、
狭心症を起こしたりすることがあるからです。

それで、定期的に心電図を撮りながら、
慎重にホルモン剤を開始しました。
通常使われるのは、
チラジンという名前のT4 の薬です。
T4 は血液の中でヨードが1個外れて、
T3 の形にならないと、
ホルモンとしては働きません。
従って、マイルドな効果なので、
危険が少ないのです。
甲状腺末と言って、
T3 の含まれた薬がありますが、
これは効きは早い代わり、
急激に反応することがあるので、
より慎重に使う必要があります。

通常大人では75から100μg 程度のチラジンが必要ですが、
(体重1kg あたり2μg というのが1つの目安です)
この患者さんの場合、
12.5μというごく少量から使い始め、
じわじわと1から2週間単位で、
その量と増やして行きます。
50μg を使った時点で、
T4 が10.4、TSH が4.79まで改善。
そのためこの量を持続し、
経過を見ています。
このくらいの量でうまく行くケースが、
実際には結構あるのです。

では、次の事例です。

患者さんは70代の女性で、
高血圧で通院中でした。
特に甲状腺の病気を疑わせる症状はなく、
僕も検査はしていませんでした。

ある夏の日、その患者さんが、
最近動悸がして汗がやたら出る、
という訴えでおいでになりました。
お聞きすると、特に体重の変化はありません。

脈を調べると、一分間に65回くらいです。
特に早くも遅くもありません。
汗を掻くのも夏の暑い盛りでしたから、
さほど異常とも思えません。
ただ、改めて首を触ると、
結構甲状腺が硬く触れるのが気になりました。
硬い甲状腺は、橋本病の1つのサインです。

それで、超音波検査をしました。
すると、やや進行した橋本病に典型的な像を認め、
部分的に黒く見える場所は、
比較的強い炎症の変化を疑わせました。
痛みはありません。

皆さんは何を疑いますか?

そうですね、
「無痛性甲状腺炎」です。
詳しくは前の記事をご覧下さい。
http://rokushin.blog.so-net.ne.jp/2008-12-16

それで、血液検査をすると、
抗マイクロゾーム抗体が陽性で、
橋本病は確定。
T4 は14.0と上昇し、TSH は0.01以下と低下していました。
そう、甲状腺機能亢進症の状態だったのですね。
汗と動悸は夏のせいではなかったのです。

通常は「無痛性甲状腺炎」は自然に治まる筈です。

症状は重症ではなかったので、
薬は使わず、
そのまま様子を見ることにしました。

すると、1ヶ月後には、
T4 は10.7まで低下。
TSH は0.02とまだ低下していましたが、
ホルモン自体は正常範囲内に下がりました。
通常こうしたケースで、
TSH の上がるのが遅れるのは、
一般的な傾向です。

そして、
更に1ヶ月後です。
T4 は7.5まで下がり、
TSH は13.28に上昇。
これはもう機能低下のレベルです。

要するに、橋本病が無痛性甲状腺炎を起こし、
甲状腺が破壊されたために、
一時的には機能亢進になりましたが、
炎症が落ち着くと、
今度は機能低下になった訳です。
ホルモン合成工場が、
焼けて無くなってしまったのですね。

更に翌月には、T4 は3.8に低下し、
TSH は115.9まで低下しました。

甲状腺の炎症による破壊は、
殊の外激しく、
甲状腺機能は重度に低下したのです。
この時点でホルモン剤のT4を25μg から開始。
徐々に75μg まで増量し、
T4 は9.3、TSH は8.4までそれぞれ改善しました。

甲状腺にあまり詳しくない医者が、
こうした患者さんを診ると、
最初の時点でバセドウ病と誤診し、
甲状腺を抑える薬を使うことがあります。
それは最悪の治療で、
重症の甲状腺機能低下症を招くことがあるのです。

皆さんもご注意下さい。

さて、この事例で1つ不思議なことがあります。

動悸や発汗のあった時点で、
患者さんは甲状腺機能亢進症の状態にありました。
にも関わらず、
脈は65と全く正常でした。
普通機能亢進症では、
脈は100を超える筈です。
何故この患者さんはそうならなかったのでしょうか?

皆さんは分かりますか?

実はこの方は「洞機能不全症候群」という、
心臓のご病気を持っていたのです。
その後めまいの症状を訴えたため、
心臓の検査をしてそのことが明らかになりました。

甲状腺機能亢進症で脈が速くなるのは、
ホルモンが交感神経を緊張させるからです。
この方のケースでは、
交感神経が緊張しても、
心臓の反応が弱く、
脈が上がらなかったのです。

このように、予想と反するデータや症状から、
隠れている病気が判明することがあります。

この辺に医療の診断学の奥の深さを感じて頂ければ、
うれしいのですが…

今日はちょっと興味深い橋本病の事例を、
ご紹介しました。
マニアックな話ですが、
如何でしょうか。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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クローバー

教えて下さい。
橋本病で治療を受けているのですが、私は、チラージンSを2錠飲んでて、TSHは2-10くらい、遊離T4は1前後位なのですが、遊離T3が<0.3となっているのです。時々測られているのですが、これでいいのでしょうか?
by クローバー (2009-04-26 11:25) 

fujiki

クローバーさんへ
遊離T3が感度以下ということは、
単純に考えれば、
T4からT3への変換が、
スムースに行なわれていないのではないか、
と考えられます。
ただ、通常下垂体は血液のT3を感知して、
TSHを調節している筈なので、
TSHが2~10ということは、
それなりに実際にはT3が存在する可能性を示しています。
甲状腺機能低下症が進行した状態では、
確かにT4からT3の変換も低下しているので、
チラジンを投与しても、
しばらくはT3が上がってこないケースはあります。
ただ、もしもう何ヶ月か飲まれているとすれば、
それでTSHが下がって来ていて、
T4のレベルも上がって来ているのに、
T3が感度以下なのはおかしいと思います。

単純に考えると、
遊離T3の計測に何か問題があって、
正確に測れていないのではないか、
というのが一番考えられるところです。

もしよろしければ、
治療前後の数値の経過を教えて頂ければ、
もう少し正確な言い方が可能だと思います。

プライヴェートな内容なので、
診療所のメールアドレスに送って頂ければ、
ご返事をお送りします。
(勿論クローバーさんがよろしければ、
コメント欄のやり取りでも構いません)
by fujiki (2009-04-26 13:34) 

クローバー

お返事をすぐに頂きながらすみません。
この病気で服薬してから何年も経つんです。引っ越し前にかかっていた先生の所に連絡をしてみたのですが、診察しないと検査結果を渡せないとのことでしたので、以前の状態がよく分かりません。
2月はチラージンSを3錠で遊離T3<0.3、遊離T4は1.41、TSH2.445でした。この日に新しい先生でチロナミン2錠とチラージン1錠にかわりました。3月は遊離T3<0.3、遊離T4は0.96、TSH15.678に。
4月にまた先生がかわってしまい、採血しないまま、またチラージンSにかわって、今度は2錠です。2週間後に来るようにいわれて、遊離T4は1.26、TSH2.34、になってました。今度の先生は遊離T3は測られないようです。コロコロと変わっていて、よく分からないのですが、体調に変わりないのでこのままこのお薬でいいのかなと思ってるのですが、どうなんでしょう?すみませんが、よろしくお願いします。
by クローバー (2009-05-05 11:38) 

fujiki

クローバーさんへ
2月のデータは明らかにおかしいのです。
T3が本当に欠乏しているのであれば、
TSHは上昇する筈だからです。

もし薬を飲む前からこうしたデータであるなら、
r(リバース)T3が上がっているという病態も、
考えられなくはありません。
ちょっとややこしいのですが、
これはT4からうまくT3が出来なくなり、
不出来のT3(これをrT3と呼びます)
が出来てしまう状態です。
ただ、通常それは低栄養状態であったり、
他に全身的なご病気のある場合の話です。

チラージンSはT4のみの製剤で、
飲むと身体の中で、T3に変わる理屈です。
従って、その時の主治医は、
T3が足りないのでは、と疑って、
T3自体を含む薬である、
チロナミンを出したのです。
それなのにT3が矢張り感度以下というのは、
測定に問題のあることを疑わせます。
こういう検査は、血液にT3の測定を妨害するものがあると、
異常値の出てしまうことは有り得るからです。

4月の医者は多分T3のデータを信用しない、
という方針で、
薬を元に戻したのです。
それでTSHが安定しているということは、
おそらくは今の処方で問題ないものと考えます。

僕の提案は一度遊離のT3ではなく、
トータルのT3を測ってみることと、
rT3を測ってみることですが、
患者さんの立場でその提案はし辛いですね。

本当は薬を飲む前のデータは、
是非確認をしたいところです。
それを見せて頂ければ、
原因はほぼ絞り込めます。
前医は守秘義務のこと等をお考えなのだと思いますが、
甲状腺機能のデータだけなら、
悪用の可能性は極めて低い筈です。
データはあくまで患者さんのものなのですから、
本人であることが確認出来、
コストを負担すれば、
診察はしなくても送って頂くのは、
何ら問題はないと思うのですが…
by fujiki (2009-05-05 13:04) 

クローバー

いろいろとありがとうございます。
でも、難しいですね。甲状腺といっても、いろいろな検査があるんですね。
今の先生は、ちょっと相談しにくくって、ここに書き込まさせていただいたんです。
とりあえず、今の薬のままで大丈夫なんですね!
ありがとうございました。
by クローバー (2009-05-05 15:46) 

mymy

はじめまして。今日、橋本病と診断された37歳女性です。
ただ、よくわからないのが、TSH:0.9 FT4:1.6 FT3:3.7 抗サログロプリン抗体:31.0 抗TPO抗体:21.5で橋本病というのがよくわかりません・・・。すべて基準値を満たしているような気がするのですが・・・。
by mymy (2014-11-20 16:01) 

fujiki

mymy さんへ
抗サイログロブリン抗体と、
抗TPO抗体は測定法によっても基準値が異なりますが、
いずれも低力価で陽性、
という判断ではないかと思います。
ただ、測定法を変えるか、
少し時間を置いて、
もう一度測定した方が良いように思います。
意外ともう一度測定すると、
正常範囲、ということも有り得ます。
血液のみによる橋本病の診断というのは、
こうしたあやふやなもので、
甲状腺学会の現行の診断基準では、
甲状腺腫のないものは、
血液のみでは橋本病とは診断はされない、
という記述であったと思います。
要するに、「その可能性がある」
という程度にお考え頂いた方が良いと思います。
確定的なものではありません。
by fujiki (2014-11-22 08:18) 

楓

私は女性で45歳、現在はチラーヂン末を処方されております。
60mg分3で、3回に分けて飲んでいます。起床時と午後2時と寝る前です。

チラーヂンSを発症以来3年程飲んでおりましたが、骨が痛んで仕方ありませんでした。腕や太ももの骨部分でした。
医師を変えて、チラーヂン末にした所、今は2ヶ月目ですが、寒い季節なのに、あの痛み、ナイフで刺されるような痛みがほぼ消えました。
fT3がいつも2.4以下だったのが、3.5となりました。TSHは0.5位です。
調子悪い心も、晴れて参りました。
なんと、生理も通常に戻りました。
心臓も、時々拍動がおかしかったのですが、なんか元に戻りました。
喜ばしいことでした。

何故、この地域で甲状腺の名医と言われていた、あのアメリカ帰りのA医師は絶対にチラーヂン末に変更していただけなかったのでしょうか。
何度もかけあって喧嘩までしても、チラーヂンSしか処方してくれなかったです。
もっと早くチラーヂン末を処方して頂けれたら、無駄な3年間を使わなくてよかったのに。
この3年で、酷く老けました。節々が冬になると痛みだして、すっかり歳のせいだと思っていました。

とにかく、チラーヂン末に出会えて良かったです。
ではでは。
by 楓 (2014-11-27 15:51) 

fujiki

楓さんへ
コメントありがとうございます。
チラーヂンSの方が安定しているので、
近年のガイドラインでは、
チロナミンやチラーヂン末の使用は否定されています。
ただ、実際にはT3製剤で、
症状の改善する事例のあることは確かで、
最近でも論文も出ていますから、
一律に否定することも問題のように、
個人的には思います。
by fujiki (2014-11-29 08:11) 

楓

fujiki先生へ。

御返事いただき、大変ありがとうございました。
私の場合もT3を加えることによって症状が改善した例の一つであると思っています。

ところで、
>最近でも論文に出ていますから
の論文をお教え願えませんでしょうか。
お忙しい中、大変に申しわけございませんが、宜しく御願い致します。
by 楓 (2014-12-06 23:16) 

fujiki先生へ。

というのも、先生もご存じだと思いますが、この度チラーヂン末が製造中止となりそうです。
チラーヂンSから、チラーヂン末に替えて、やっと人間らしい暮らしを出来そうになっているのに、また、あの疼痛地獄に陥るのは嫌なのです。

あすか製薬さんはチラーヂンSへ切り替えてくださいとの事でした。
しかしながら、どうしても、T3を加えた治療でないと、体調が酷く悪くなるのです。

この辺りで、チロナミン治療に理解のある先生がいらっしゃらないので、その論文があったら、知り合いのお医者様にかけあうことが出来そうなので。
宜しくお願い致します。
by fujiki先生へ。 (2014-12-07 16:05) 

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