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ホルモンおたくの甲状腺学 [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは、今日の話題です。

甲状腺の話を続けます。
もう終わりにしようと思ったのですが、
根が好きな分野なので、
どうしても饒舌になります。
多分今日ではまだ終わりません。
まあ、甲状腺ヲタクなんですね。
お許し下さい。

それではこれから、診療所で経験した、
橋本病の症例をお示ししたいと思います。

最初に甲状腺の検査値について説明します。
ちょっとマニアックな話になりますので、
そのつもりでお読み下さい。

甲状腺のホルモンにはT4とT3という2種類があり、
この3とか4というのは、
その中にあるヨードの数を示しています。
主にホルモンとして働くのはT3で、
甲状腺の細胞は、
T3とT4を両方作り、
血液の中でT4からヨードが1個外れて、
T3になります。

普通甲状腺の働きを見る時には、
T3とT4とTSH を測ります。
TSH というのは、
甲状腺刺激ホルモンと呼ばれ、
脳の下垂体から分泌されます。
その名の通り、このホルモンに刺激されると、
甲状腺はせっせと働き、
T3 とT4 は増えます。
ある程度以上ホルモンが増えると、
それを察知してTSH は下がり、
甲状腺は刺激されなくなるので、
ホルモンはそれ以上作られず、
ホルモンは正常に保たれます。
こうした自然の巧みな仕組みを、
ネガティブ・フィードバックと呼びますね。

T3 とT4 は通常蛋白質にくっついて存在し、
その一部が外れて、その外れた一部だけが、
ホルモンとして働きます。
ホルモンを測る方法としては、
蛋白質にくっついたものを含めて、
ホルモンの全体を測る方法と、
遊離ホルモンと言って、
外れた一部のホルモンだけを測る方法とがあります。
ホルモンの全体を測る方法は、
そのくっついた蛋白質の量によって影響を受けるので、
今では良くないとされ、
通常一般の多くの医者は、
多分遊離のホルモンを測っています。

でも、僕は通常全体のホルモンを測っているんです。

その一番の理由は、
大学で教わった甲状腺が専門の教授の影響です。
教授は当時開発されて間もなかった遊離ホルモンの測定が、
当てにならない、と信用せず、
全てのデータは全体のホルモンで計測していました。
今では遊離ホルモンの測定は改良された、
と言われています。
でも、実際に測ってみると、
僕には矢張り全体のホルモンの測定法の方が、
しっくり来ます。
非常に繊細な動きをするので、
軽度の異常を検出しやすいんですね。
「ホルモン屋は検査値が全てだから、拘りが強いんだ」、
と言われた先輩もいました。
「ホルモン屋」というのは、
ホルモンの病気を専門にする医者のことです。
面白いでしょ。
勿論データが全てじゃ、
医者は良くない訳ですが、
データへの職人的な拘りも、
また医者のある種の特性ですね。

皆さんは医学は日々進歩して、
新しい検査法が開発され、
診断技術も昔より進歩している、
と思われるかも知れません。

それは一面の事実ですけれど、
そうも言い切れないところもあるんですね。

たとえば、甲状腺の病気の診断についての拘りは、
おそらく何十年か前の方が間違いなく深く、
精緻で高度なものだったと思います。
人間の知性はなまじ便利な道具のない方が、
研ぎ澄まされるものだからです。
今第一線の先生の書いた甲状腺の本を、
今回読み直しましたが、
僕にはどう考えても、
昔の教授の話をメモしたノートの方が、
内容も深く高度で知的で勉強になる気がします。

だって、どう考えたって、
人間の質は最近落ちているでしょ。
それなのに科学だけが進歩するなんて、
そんなことは信じられないし、
現実にそうではないのだと思います。

ちょっと話が脱線しました。

甲状腺の検査値の話に戻りますね。

甲状腺の働きは、
T3 、T4 というホルモンと、
それを制御しているTSH との関係で見る、
と言いました。

一番重要なのは、
この中でTSH です。

TSH の働きに異常の出る一部の病気の場合を除いて、
このホルモンの濃度は、
そのまま甲状腺の働きを示しています。

TSH の正常値は、
おおよそ0.5 から3 μIU/mlくらいですが、
これがバセドウ病で機能亢進になると、
0.03 以下に下がります。
その一方で橋本病で機能低下になると、
数値は5を超えます。
ホルモンのT4 は10 μg/dl くらいが上限で、
これが12を超えると正常なTSH は感度以下になります。
TSH が10を超えると、
機能低下は症状を少し出すレベルになり、
ホルモン剤の治療を始める目安になるのだと、
教授のノートにはあります。
要するにTSH の値が高いほど、
甲状腺の機能低下は重症になるのです。

よろしいでしょうか。

ホルモンの全体量とTSH とをプロットすると、
奇麗なグラフが出来ます。
しかし、これを今使っている遊離ホルモンでプロットすると、
あまり奇麗なデータが出来ません。
この点が、
教授が「遊離ホルモンの測定はいい加減だ」、
と言われる1つの根拠です。

それでは、症例に移ります。

Bさんは40代の女性です。
特に症状はおっしゃらなかったのですが、
健診で甲状腺が大きいのでは、
との指摘を受けて、
診療所においでになりました。

お首を触ると、やや硬めの甲状腺を触れます。
超音波検査をしてみると、
全体にやや甲状腺は腫れていて、
中のざらついた感じは、
橋本病を疑わせました。

それで、血液の検査をしました。
結果、抗マイクロゾーム抗体が上昇していました。
これで、橋本病は確定です。
それから、ホルモンのT4 は8.4と正常範囲で、
TSH は10.9とやや上昇。
これは軽度の甲状腺機能低下症の状態です。
軽度の機能低下症では、
ホルモン値は下がらず、
ただ刺激ホルモンの値だけが上がっているのですね。
教授の説によれば、
TSH が10を超えれば、
治療するべきとのことです。
特に症状の訴えもなく、
治療するかどうか迷うところですが、
取り敢えずT4 製剤での治療を開始しました。

すると…

2週間後のTSH は4.84まで低下し、
甲状腺機能はほぼ正常になりました。

するとその時点でBさんは、
「こんなに良く効く薬は初めてだ」、
と感激した面持ちでお話をされました。

実はBさんは、特に夕方に強い、
身体のだるさと頭のすっきりしない感じで、
非常に苦しめられていたのです。
しかし、それは年齢とストレスによるもので、
薬などでは治る筈のないものと、
半ばあきらめていたのでした。

通常TSH が10程度の甲状腺機能低下症は、
さして症状に結び付くことはない、
と言われています。
しかし、現にこのBさんの例では、
甲状腺ホルモンの僅かな変調が、
身体の大きな変化に結び付いていたのですね。

単なるストレスとか更年期とかと言われている症状の中に、
こうした事例があるのだと、
強く印象に残った実例でした。

もし軽度の甲状腺機能低下が疑われる時は、
症状を詳細に聞き取り、
ホルモン剤の投与を試験的に始めるべきです。
結果は2週間も見れば、
それで十分です。
患者さんが効果があったと認めてくれれば、
続ければいいのです。
ね、シンプルでしょ。

明日はもう幾つかの事例をお示ししたいと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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tanico

早々にリクエストに答えて下さって、ありがとうございます!
改めて、お医者さんの知識とはこうも深いものかと、驚きました。
図々しいお願いをして、ご不快だったら・・・と、思ったのですが、これだけ詳しくお話がきけて、リクエストしてよかったです。

この病気の方は、意外にいらっしゃるんですね。
自分の場合は、健康診断の折りに、甲状腺が大きいと指摘され、血液検査だけの診断でした。
自分では無症状だと思っているのですが、数値から、程度がわかるんですね。
それから、甲状腺科とか専門外来とかじゃないとダメなのかと思っていましたが、先生のところで見ていただける事がわかって良かったです。
そのうち、一度エコーで見ていただきたいところです。

本当にありがとうございます。

明日も楽しみにしています。
by tanico (2008-12-18 09:57) 

fujiki

tanicoさんへ
甲状腺の話は一度書きたかったので、
リクエスト頂いて嬉しかったです。
ご参考になる点があれば書いた甲斐があります。
これからもよろしくお願いします。

by fujiki (2008-12-18 23:05) 

kumako

12月に甲状腺機能低下症が見つかり、ネットで調べていてこちらのページを拝見しました。私も40代の女性で、身体の不調を加齢や更年期かと思い込んでいました。最初の検査ではT3はギリギリ正常値でT4が0.8、TSHが113でした。近所の内科でチラーヂン50を処方され、一ヶ月経ちTSHも13になりました。まだダルいのや思考がスロー、髪が抜けたりと症状はありますが、これから良くなっていくのだろうと思います。
甲状腺についてのネット上の説明は概説が多く、具体的な臨床例を挙げて書いてあるページはなかなか見つけられず、とても参考になりました。有難うございました。

by kumako (2009-01-20 13:55) 

fujiki

kumakoさんへ
結構力を入れて書いたものなので、
参考になればとてもうれしいです。
もしよろしければ、
また時々覗きに来て下さい。
by fujiki (2009-01-20 21:51) 

sukhi

橋本病の27歳の娘についてご相談させてください。
都内の甲状腺専門病院で上記の診断を受けました。強い疲労感、冷え、徐脈、むくみなどの症状は出ているのですが、検査数値では甲状腺機能低下にはなっていないので半年後に再検査と言われました。しんどいのに何の治療も受けられず、辛い状態です。
こちらの記事に
「もし軽度の甲状腺機能低下が疑われる時は、
症状を詳細に聞き取り、
ホルモン剤の投与を試験的に始めるべきです。」
とあるのを読んで相談させていただいております。
娘の場合、TgAbは433.8ですが、FT3は2.3、FT4は1.02、TSHは1.51です。これだけ低い数値でも、症状があれば試験的に投薬していただくことはできますでしょうか?
by sukhi (2012-07-02 21:01) 

fujiki

sukhi さんへ
TSHが1代では、
甲状腺ホルモンが症状の原因となっている可能性は、
高くはないと思いますが、
試験的に使用すること自体は、
特に問題はないと思います。
ステロイドホルモンの異常がないかどうかは、
一応見ておいた方が良いかも知れません。
by fujiki (2012-07-03 08:27) 

sukhi

早速のお返事をありがとうございました。
娘に知らせて、そちらでの受診を相談したいと思います。
ありがとうございました。
by sukhi (2012-07-03 09:21) 

ym

石原先生、以前抗生物質による薬剤性抹消神経障害の疑いでご相談させて頂きました者です。その節はありがとうございました。今は朝起きても抜けない全身の脱力〜特に下肢〜、腕のしびれ、筋肉のぴくつきにずっと悩まされており、針筋電図検査、神経伝導検査もやりましたが異常なしでした。他方で、先日の甲状腺の血液検査でTSH T3 T4は正常値でしたが、甲状腺ペルオキシターゼ抗体のみが陽性で21の高値でした。この場合、橋本病は疑われますでしょうか。お忙しいところ申し訳ございませんが、ご教示頂ければ幸いです。どうぞよろしくお願い申し上げます。
by ym (2017-12-02 11:02) 

fujiki

ymさんへ
疑いという言い方は出来るのですが、
抗体の弱陽性は、検査のタイミングによっても、
陰性化したりもするので、
確定的な所見ではありません。
私自身は触診と超音波検査で、
慢性の甲状腺炎を疑う甲状腺の変化があるときに、
「橋本病の可能性が高い」と考えています。

by fujiki (2017-12-04 05:59) 

ym

石原先生、ご多忙のところ本当にありがとうございました。病院では特に橋本病を疑うところはない(検査結果もそこまでのものではないから)とのことでしたし、先生のお話をお伺いし、安心致しました。なお、以前ご相談した薬剤性末梢神経障害の疑いのことですが、針筋電図検査、神経伝導検査症状で異常が出ていない場合には、現在の症状(全身の脱力〜特に下肢〜、腕のしびれ、筋肉のぴくつき)は改善してくる可能性がありますでしょうか。日によって症状は動き和らぐときもあるのですが、、
by ym (2017-12-06 11:58) 

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