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去痰剤カルボシステインのCOPDに対する効果(2017年のメタ解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
カルボシステインのCOPDに対する効果.jpg
2017年のInternational Journal of COPD誌に掲載された、
カルボシステインという古く安価な去痰剤が、
慢性の肺の病気の急性増悪の予防や病気の予後改善に、
有効であることを示唆するメタ解析の論文です。

風邪で痰が絡んだり、
咳が出たりすると、
必ず処方される薬があります。

総称して去痰剤と呼ばれるもので、
カルボシステイン(商品名ムコダインなど)や、
アンブロキソール(商品名ムコソルバンなど)などが、
その代表です。

安い薬ですし、
市販の風邪薬や咳止めにも入っています。

飲んだ方の印象も、
「別に咳が止まる訳でもないし、
まああってもなくても大差のない薬だね」
といったところではないでしょうか?

ところが、
この去痰剤が意外に優れモノであることが、
最近の研究によって明らかになっています。

痰とは何でしょうか?

特にご病気のない人でも、
1日100ml程度の分泌物が、
気道では産生されています。

成分的には9割が水分で、
それ以外にムチンという糖蛋白質が、
その主成分です。

痰というのはこのムチンという成分が、
過剰に産生された状態です。

このムチンは粘り気のある物質なので、
これが多ければ分泌物はドロドロで固まり易くなり、
それが痰と呼ばれる状態なのです。

気道の感染症やアレルギー反応が起こると、
主に炎症性のサイトカインの影響により、
ムチンの産生は増加します。

これが喘息や風邪や肺炎で、
痰が増えることの主な理由です。

気道に炎症が起こると、
それが細菌感染であれば、
好中球という種類の白血球が多く気道に集まり、
そこに含まれる酵素の性質により、
痰には色が付きます。
概ね好中球がそれほど多くないと、
痰は黄色くなり、
ある程度以上多くなると緑色になります。

痰の生成は基本的には身体の異物除去反応で、
有害なものではありませんが、
気道が障害されて、
スムースに痰を外に出すことがし難くなると、
気道に痰が詰まり易くなり、
最悪はそのために窒息が起こることがあります。

特に寝たきりのお年寄りが肺炎に罹ったりすると、
そのために痰が詰まって、
亡くなる要因ともなるのです。

また、適切な量のムチンの産生は、
身体にとって大きな問題にはならないのですが、
気道の炎症が慢性化すると、
好中球という白血球が分泌する酵素の働きによって、
ムチンを産生する細胞が増加することが、
動物実験などで確認されています。
つまり、お年寄りや喘息の患者さんで、
常に気管支炎などの炎症が、
慢性的に起こっていると、
ムチンの産生が病的に増えて、
それだけ痰が出し難くなる、
という悪循環が生じてしまうのです。

ここに、痰を減らす薬の必要性があります。

去痰剤と呼ばれる薬があります。

その名の通り痰を減らす作用のある薬ですが、
そこにも幾つかのメカニズムの違いがあり、
また特徴があります。

痰の主成分はムチンですが、
これは糖と蛋白質との複合体です。

この糖と蛋白の間のS-S結合と呼ばれる部分を切り離すのが、
システイン系と呼ばれる薬剤で、
主に使用されているのは、
アセチルシステイン(商品名ムコフィリンなど)と、
メチルシステイン(商品名ペクタイトなど)と、
エチルシステイン(商品名チスタニンなど)です。

次にムチンの糖の部分を分解するのが、
塩酸ブロムヘキシン(商品名ビソルボンなど)です。

更にはムチンの蛋白質を分解するのが、
蛋白分解酵素剤ですが、
その代表格のセラペプターゼ(商品名ダーゼンなど)は、
プラセボと有効性に差がなかったとして、
現在は発売がされていません。

一方でアンプロキソール(商品名ムコソルバンなど)は、
ムチン自体は分解せず、
痰が気道に付着し難くして、
その排泄を促す、
というちょっと変わった作用の薬です。

そして、最近その効果が再評価されている、
カルボシステイン(商品名ムコダインなど)は、
ムチン産生そのものの抑制効果があります。
つまり、ムチンを分解するのではなく、
その産生量を減らすのです。

従って、ムコダインとムコソルバンとビソルボンは、
それぞれ別個のメカニズムを持つ、
別個の薬です。

粘り気の強い痰が少量の場合には、
ムチンを分解するような薬剤と、
その付着を妨害するような薬剤が適しています。
すなわち、ビソルボンとムコソルバンの併用が良く、
ムコダインはあまり良い選択ではありません。

一方で痰の量がやや多く、
粘り気はさほどでない場合には、
ムコダインが良い適応です。
それで痰が詰まり易い場合には、
ムコソルバンを併用します。

近年アセチルシステインは、
主に海外で肺線維症の進行予防効果が報告され、
アンブロキソールは2004年に、
カルボシステインは2007年から2008年に、
それぞれ慢性閉塞性肺疾患の、
増悪を抑制する効果が報告されて話題になりました。

今日の主題であるカルボシステインについては、
慢性閉塞性肺疾患の患者さんに、
1年間の長期間使用したところ、
その患者さんの症状の増悪回数や、
風邪を引く回数が減少した、
という結果が報告されました。
これはPEACE研究と名付けられ、
その一部はLancet誌に掲載されて、
その年の優秀論文の1つに選ばれました。
それがこちらです。
カルボシステインの効果Lancet.jpg

この内容とちょっと裏話的な話をします。

ムコダインは1981年に杏林製薬が発売した薬です。

元々ムチンの産生を抑え、
痰の粘性と量とを抑える作用の薬ですが、
2006年に風邪ウイルスの代表格であるライノウイルスの、
気道上皮への付着を妨害し、
その感染を予防する効果がある、
という内容の日本の論文が発表されました。
ウイルス感染は慢性の呼吸器疾患の、
増悪因子として重要なものです。

喘息の患者さんや肺気腫の患者さんは、
風邪を引くとそれをきっかけに呼吸の状態も悪化します。
これはウイルス感染によるサイトカインの産生が、
痰の産生を増やすことが、
その大きな増悪要因の1つです。

この点から考えて、
ウイルス感染を阻止するムコダインには、
慢性の呼吸器疾患の増悪を抑え、
その予後を改善する効果があるのではないか、
という推測が生まれたのです。

この推測を検証するために、
杏林製薬がお金を出して、
日本と中国とで合同で行なわれたのが、
PEACE研究です。

日本の研究は151例の慢性閉塞性肺疾患の患者さんを、
75例と76例との2群に分け、
一方にはムコダインを使用し、
もう一方は使用しません。
それで1年間観察し、
その間の急性の症状悪化の差を見るのです。
症例の年齢は平均が60代で、
比較的ご高齢の方の多い分布です。

その結果、増悪回数、感冒の罹患回数が、
ムコダインの使用群で、
有意に少なかったというデータが得られました。

一方で中国の研究は、
基本的に同様のものですが、
症例数は全体で791例と、
日本の5倍以上です。
そして、増悪の減少及びQOLの改善の2点において、
ムコダイン使用群が有意に効果が認められた、
というものです。

これは杏林製薬がお金を出した共同研究の筈ですが、
実際には中国の研究と日本の研究とは、
同じ内容にも拘らず、
別々に発表され、
その評価は圧倒的に中国側の研究の方が上です。
勿論例数に違いがあり、
日本の151例というのは、
大規模臨床試験としては、
明らかにショボイので、
仕方のないことかも知れませんが、
何と言うのか、
お金だけは全部出して、
功績は全て持っていかれているので、
今の日本と中国との関係を、
これだけでも如実に示しているような気がします。

余談でした。

さて、今回の論文はこのPEACE研究を含めて、
それ以降2016年の9月までに発表された、
介入試験と呼ばれる精度の高い臨床試験のデータを、
まとめて解析し、その効果を検証しています。

その結果、トータルで1357名のCOPDの患者さんのデータを、
まとめて解析した結果として、
偽薬との比較でカルボシステインを使用することにより、
COPDの急性増悪は57%(95%CI;-0.57から-0.29)有意に低下していて、
生活の質も有意に改善していました。
呼吸機能や有害事象、入院のリスクには有意な差はありませんでした。

このように、
PEACE研究以降それほど大規模なデータはないので、
メタ解析と言ってもそれほど意味のあるものとはなっていないのですが、
2017年の現在においても、
カルボシステインをCOPDの患者さんに継続的に使用することには、
一定の有効性があることは否定されておらず、
安価で古い薬ですが優れた薬であることは間違いがないと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


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アメリカにおける2015から16年のインフルエンザワクチンの有効性 [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は溜まっている作業をする予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
インフルエンザワクチンの2016年の効果.jpg
今月のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
昨シーズンのインフルエンザワクチンの効果を、
アメリカで検証した論文です。

現在日本で使用されているインフルエンザワクチンは、
スプリットワクチンと言って、
バラバラにしたウイルス抗原を、
そのまま注射するというもので、
それ以前の全粒子型のワクチンと比較すると、
その効果は落ちますが、
安全性が高く、重篤な有害事象の少ないのが特徴です。

2009年の所謂「新型インフルエンザ」の流行時には、
迅速に流行株の抗原をワクチンにしたので、
その有効性は非常に高く、
インフルエンザワクチンの有効性を再認識させました。

ただ、このタイプのワクチンは、
血液での抗体は誘導しても、
粘膜の抗体は誘導しないため、
感染自体を阻止することは出来ない、
という意見や、
成人と比較して小児への有効性が低い、
という意見、
少しでも流行しているウイルス抗原が、
ワクチン抗原と異なっていると、
その有効性が低くなる、
というような意見などがあって、
特に小児に対しては、
より有効性の高いワクチンが必要だ、
という考えが根強くありました。

その有力な候補として考えられたのが、
経鼻のインフルエンザ生ワクチンです。

経鼻インフルエンザ生ワクチンは、
低温馴化ウイルスと言って、
鼻の粘膜では増殖するけれど、
それを超えて肺炎などを起こすことはないように、
その働きを弱くしたインフルエンザウイルスそのもので、
その表面の抗原タンパク質は、
流行の予測される抗原を、
遺伝子工学の技術を用いて入れ替えて作られています。

このウイルスを、
スプレータイプの器具を用いて、
鼻の粘膜に噴霧します。

すると、
鼻の粘膜のみにインフルエンザのワクチン株による感染が起こり、
それが粘膜と血液の両方の免疫を誘導する、
という仕組みです。

これが経鼻インフルエンザ生ワクチンで、
商品名はフルミストと言われるものが、
2003年にアメリカで承認され、
2011年にはヨーロッパでも承認されました。

このワクチンは何よりも注射ではなく、
点鼻で接種が可能である、ということが利点で、
それに加えて注射の不活化ワクチンとは異なり、
粘膜の免疫を誘導することから、
特に小児においては、
有効性の高いことが期待されました。

実際、アメリカで発売後に施行された臨床データにおいては、
80%以上という高い有効性が報告されました。

このため、アメリカでは2014年、
2から8歳の小児では不活化ワクチンではなく、
経鼻生ワクチンの接種が推奨されることになりました。

日本においてもこの頃から、
一部の小児科のクリニックなどでは、
輸入したフルミストを、
自費で接種するような試みが行われました。

ここまでは良いこと尽くめの経鼻生ワクチンで、
向かうところ敵なしと感じられたのですが、
2013年から14年のシーズンに、
2009年に「新型インフルエンザ」と呼ばれたのと同じタイプのウイルスが流行し、
それに対して経鼻生ワクチンは、
全くの無効であったことが、
その後の解析で明らかになると、
ちょっと風向きが変わり始めます。

2015年のシーズンにおいて、
アメリカの予防接種諮問委員会(ACIP)は、
2から8歳の年齢層において経鼻生ワクチンを優先する、
という方針を切り替え、
生ワクチンでも不活化ワクチンでも、
どちらでも良いという指針に後退します。

2016年のPediatrics誌には、
CDC(アメリカ疾病予防管理センター)による解析結果が論文化されていて、
2010年から14年の4シーズンのそれぞれにておいて、
経鼻生ワクチンと従来の不活化ワクチンの注射との有効性を、
比較検証したものとなっています。

その結果は驚くべきもので、
どのシーズンにおいても不活化ワクチンと比較して、
生ワクチンの方がよりインフルエンザを予防した、
という結果はなく、
特に2009年に流行したH1N1に関しては、
はっきり無効と言って良い結果となり、
明確に不活化ワクチンよりその効果は劣っていました。

こうした結果を受けて、
2015から16年のシーズンにおいては、
4価の経鼻生ワクチンに使用するA(H1N1)pdm09のワクチン株は、
より流行しているウイルスに近いものに変更されました。

これで含まれている抗原の性質においては、
4価の不活化ワクチンと経鼻生ワクチンは同等、
と考えて良いことになります。

それでは2015年から16年のシーズンにおける、
不活化ワクチンと経鼻生ワクチンの効果はどうだったのでしょうか?

今回の論文はそのアメリカにおける検証です。

2015年から16年のインフルエンザの流行期に、
アメリカの異なる複数の地域の医療機関をインフルエンザ様症状で受診した、
生後6か月以上の6879名の患者さんを登録し、
診断陰性例コントロール試験という手法で、
ワクチンの有効性を推計しています。

これはインフルエンザ様症状を呈した患者さんのうち、
遺伝子検査でインフルエンザ感染が確認された患者さんと、
検査が陰性であった患者さんのうち、
ワクチン接種者と非接種者の比率を比較して、
そこからワクチンの有効性を推定するという方法です。

本来ワクチン接種者と非接種者を同数くらいずつ登録して、
シーズン中にインフルエンザに感染したかしなかったかで、
その比較から有効率を計算するのが通常の方法ですが、
これだとその集団の感染率が低ければ、
比較するのは難しくなりますし、
そのシーズンが終わらないと解析が出来ないという欠点がありました。

症状のある患者さんだけを対象として、
インフルエンザ検査が陰性であった患者さんをコントロールにする、
という診断陰性例コントロール試験は、
ややトリッキーな感じもしますが、
シーズンの途中でも迅速に結果を出せるという利点があります。

最近の実地臨床でのワクチンの効果判定は、
世界的にも概ねこの方法で行われています。

今回の研究においては、
インフルエンザ様症状を呈した6879例の患者さんのうち、
19%に当たる1309例が遺伝子検査でインフルエンザと診断され、
ウイルス型はA(H1N1)pdm09が、
インフルエンザ群の58%に当たる765名で、
B山形型が19%に当たる250名、
Bビクトリア型が15%に当たる200名、
A香港型はグッと少なく6%に当たる72名でした。

全ての型のインフルエンザに対する従来の不活化ワクチンの有効率は、
48%(95%CI;41から55)で有意に認められましたが、
経鼻生ワクチンの効果は認められませんでした。

生後2歳から17歳の年齢層において、
未接種と比較して経鼻生ワクチンの有効性は、
統計的には認められませんでした。
有効率は5%(95%CI;-47から39)でした。
個別の有効率はA(H1N1)pdm09が-19%(95%CI;-113から33)、
B型が18%(95%CI; -52から56)という低率でした。

一方でこの年齢における不活化ワクチンの有効率は、
トータルで60%(95%I;47から70)と有意に高く、
個別の有効率についても、
A(H1N1)pdm09が63%(95%CI;45から75)、
B型が54%(95%CI;31から69)といずれも未接種と比較して、
有意に高くなっていました。

この年齢においては、
経鼻生ワクチンを接種すると、
不活化ワクチンを接種した場合と比較して、
2.7倍有意にインフルエンザ感染のリスクが高くなる、
という驚くような結果になっています。
(95%CI;1.6 から4.6)

今回のアメリカでの検討においては、
全てのインフルエンザ型で全ての年齢層において、
経鼻インフルエンザワクチンは従来の不活化ワクチンより、
その有効性において劣っていて、
はっきり言えばほぼ無効と言って良い結果になっていました。

ただ、たとえばイギリスにおける同様の検討においては、
A(H1N1)pdm09に対する有効率は、
2歳から17歳で48%という結果になっていました。
ただ、比較された3価不活化ワクチンの有効率は100%です。

このように経鼻生ワクチンの有効率が、
最近の検討では不活化ワクチンより低いことは、
世界中の検証でもほぼ一致している知見です。
ただ、地域によっても、
その報告された有効率にはかなりの幅があり、
現行使用されている有効率の算定法を用いる場合には、
その集団の設定によっても、
有効率にはかなりの違いが出てしまうこともまた、
確かなことではあるようです。

いずれにしても、
少なくとも現行の製法による、
インフルエンザの経鼻生ワクチンの評価は、
現状かなり低いものとなったことは間違いがありませんが、
それが抗原の種別によるものでないとすれば、
一体何が問題であるのか、
また発売当時の臨床データにおいては、
不活化ワクチンより格段に生ワクチンが優れていたのは何故なのか、
何か解析に問題があったのではないのか、
もう一度再検証が必要ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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血圧の変動と認知症リスク(2017年久山町研究解析) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日からクリニックは通常通りの診療になります。

それでは今日の話題です。
今日はこちら。
血圧の変動と認知症のリスク.jpg
今年のCirculation誌に掲載された、
血圧の変動と認知症との関連についての論文です。
九州の久山町研究という、
ある町の健康調査を継続した日本有数の疫学データを元にした、
解析結果を論文化したものです。

認知症と血圧との関連については、
これまでにも多くの研究データがあります。

認知症には脳血管の動脈硬化により起こる、
脳血管性認知症と、
脳の神経細胞への異常蛋白の蓄積などによって起こる、
アルツハイマー型認知症やレビー小体型認知症などの、
変性性認知症があります。

このうち脳血管性認知症は動脈硬化による病気ですから、
発症前の血圧(収縮期血圧)が高いほど、
認知症のリスクも増加します。

一方でアルツハイマー型認知症などの変性性認知症については、
必ずしも血圧の数値との関連が明確ではありません。

最近血圧の数値の高さよりも、
その変動が大きいことが、
認知症のリスクになるのではないか、
という考え方が広まり、
幾つかのデータもその可能性を裏付けています。

ただ血圧の変動をどのようにして評価するか、
と言う点については、
研究によってもかなりまちまちで、
海外の臨床研究では、
診察室で日を変えて何度か測定した血圧の、
変動を見ていることが多いのですが、
それがその人の毎日の血圧の変動を、
的確に反映しているという根拠はあまりありません。

そこで今回の研究では、
自宅で決められた期間、
オムロンの自動血圧計で毎朝3回の血圧測定を行い、
その3から28日連続の測定値の変動幅と、
その後の認知症の発症との関連を検証しています。

対象者は久山町の、
登録の時点で60歳以上で認知症のない1674名で、
5年間の経過観察を行い、
その間の認知症の発症と、
血圧の変動及び血圧の数値との関連を検証しています。

その結果…

観察期間中に194名の認知症が診断され、
そのうち47名は脳血管性認知症で、
134名がアルツハイマー型認知症でした。
年齢や性別など関連する因子を補正した結果として、
収縮期血圧の変動係数が5.07%以下と、
最も低い群と比較して、
7.61%以上と最も高い群では、
トータルの認知症のリスクが2.27倍(95%CI;1.45から3.55)、
脳血管性認知症のリスクが2.79倍(95%CI;1.04から7.51)、
アルツハイマー型認知症のリスクが2.22倍(95%CI;1.31から3.75)、
それぞれ有意に増加していました。

同様の傾向は拡張期血圧でも認められましたが、
収縮期血圧の数値自体は、
脳血管性認知症のリスクとは相関しましたが、
トータルな認知症のリスクと、
アルツハイマー型認知症のリスクとは相関しませんでした。

収縮期血圧値と血圧の変動幅の2つの数値は、
それぞれ独立した指標として、
個々の認知症のリスクに影響していました。

このように、
血圧が高いほど上がる認知症のリスクは、
脳血管性認知症のみでしたが、
血圧の変動が大きいことは、
アルツハイマー型認知症を含む、
全ての認知症のリスクと関連していました。

これまでの同様の臨床データにおいて、
条件はそれぞれ違うものの、
ほぼ同様の結果が出ていることからして、
血圧の変動がその後の認知症のリスクと、
一定の関連のあることは間違いがなさそうです。

ただ、現状は血圧の変動自体が認知症の原因なのか、
それとも何か別個の原因により血圧が変動しているのかは、
明らかではありませんし、
血圧変動の測定法も一致はしていません。
また、現時点で的確に血圧変動を正常化するような方法も、
確立されてはいません。

今後のそうした点の検証が是非必要だと思いますし、
新しい知見が積み重なってゆけば、
認知症の予防についての、
新しいブレイクスルーに繋がることになるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

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大将軍神像と妖怪ストリート [仏像]

こんにちは。

北品川藤クリニックの石原です。

クリニックは今日まで夏季の休診です。

また奈良と京都に行って来たので、
今日はその話です。

こちらをご覧下さい。
大将軍八神社本殿.jpg
京都は北野天満宮にほど近い場所にある、
大将軍八神社(だいしょうぐんはちじんじゃ)という、
古い神社をお参りして来ました。

その本殿正面の写真です。

京都には六道珍皇寺など、
陰陽道に深い関わりのある場所がありますが、
こちらの神社もその1つで、
そもそもは西暦794年の平安京遷都の年に、
御所の天門の地に大将軍を祀る大将軍堂を開いたのが、
その始まりとされています。

大将軍というのは陰陽道の神様で、
星や方位をつかさどるとされています。
天文学に深い関わりを持つ星の神様です。

要するに仏教や神道とは全くの別物で、
別個の信仰として存在していたのですが、
明治になって陰陽道がはっきり異端とされたので、
多くのこうした信仰は失われ、
そもそもなきもののようにされたのです。

この神社は後付けで聖武天皇と桓武天皇をお祀りし、
辛くも存続することに成功して現在に至っています。

仏像好きとしては、
80体の大将軍神像群が残されていることが極めて貴重で、
元は大将軍堂の中に、
数百体の神像が立体曼荼羅を成していたということなのですが、
規模は小さいにしても宝物館の一室には、
立体曼荼羅が再現されていて、
その凄みと迫力は、
他に日本ではちょっと類のないものだと思います。

こちらをご覧下さい。
大将軍八神社宝物館.jpg
宝物館の入り口です。
神像のレプリカが安置されています。

中に入ると一階の殆どのスペースを使って、
80体余りの大将軍神像群が立体曼荼羅を構成していて、
2階には主に天文学関連の古い資料が展示されています。
「天地明察」で有名な江戸時代の天文学者澁川春海が作った、
天球儀の実物などもそこにあります。

こちらをご覧下さい。
大将軍八神社パンフレット.jpg
内部の撮影は禁止ですので、
こちらは神社のパンフレットにある画像です。
こちらが中央でここから部屋を取り巻くようにして、
80体余りの姿かたちの異なる神像がズラリと並びます。
実際には照明は暗く、
朧に神像が浮かび上がるという感じで、
もっと凄みがあるのです。

次をご覧ください。
大将軍像1.jpg
5号像とされている、
立体曼荼羅に中心に安置された神像です。

こちらは神社で購入した、
絵葉書の写真になります。

最も完成度が高く、
保存状態も良いものです。

次をご覧下さい。
大将軍像2.jpg
44号像とされているものです。
西洋の悪魔を思わせるような、
かなり日本の古代彫刻としては特異な造形です。

一連の神像は平安時代から鎌倉時代に掛けて造られているのですが、
こうしたものを見ると、
今残っている仏像や神像は、
長い年月において「正統」とされたもののみで、
実際にはもっと自由自在な多くの仏や神の形が、
人間の手によって造られていたことが推測されます。

大将軍八神社もさることながら、
その周辺の街並みもなかなか個性的です。

こちらをご覧下さい。
大将軍商店街1.jpg
周辺の商店街は、
その昔百鬼夜行が通ったらしく、
妖怪ストリートとなっています。

この看板をもう少し引きで見ます。
大将軍商店街4.jpg
このように2階からは愛嬌のある妖怪が覗いています。

街を少し歩くとこんなところもあります。
大将軍商店街2.jpg
イベントスペースのようですが閉まっていました。

こちらをご覧下さい。
大将軍商店街3.jpg
百鬼夜行の資料館があるようなのですが、
そこも閉まっていました。

本来お盆には妖怪ストリートは、
開いていないといけないような気がするのですが、
人間様の都合の方が優先されているのかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
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「君の膵臓をたべたい」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日のため休診です。

休みの日は趣味の話題です。

今日はこちら。
君の膵臓をたべたい.jpg
2015年の住野よるさんによるベストセラー小説を、
実写映画化した作品が、
今ロードショー公開されています。

これは原作を読んでから映画を見ました。

原作は特段好みではないのですが、
確かにこれは売れるよな、という感じはします。
所謂「難病もの」なのですが、
病気の詳細を一切明らかにしていないことと、
難病の少女の死に方に斬新さがあります。
そこに向けて盛り上げるという構成も巧みです。
内向的で傍観者的な男の子の恋愛というのは、
古めかしい感じのテーマですが、
レトロな感じを上手く情感に結び付けています。
後半が長く、ダラダラとしていて、
描写もライトノベル的にスカスカなのが欠点ですが、
今の多くの読者の方は、
そうした文章の密度や重さのようなものには、
感心が薄いので良いのかも知れません。
題名は結局はこじつけの感じなのですが、
その不自然さが目を惹いて売れた、
という側面が大きいので、
成功しているのだと思います。

映画は大人になってからの少年と,
友人の少女を、
人気者の小栗旬さんと北川景子さんに演じさせていて、
回想と現在が入り混じるような構成になっています。
多分集客を考えての改変だと思われ、
原作を読んでから映画を見ると、
かなり蛇足のようで違和感を感じるのですが、
映画を最初に見た妻は、
むしろ現在の場面の方が良かったという感想でしたから、
映画としてはそれで正解なのかも知れません。

これは原作も映画もともにそうなのですが、
主人公の少女がいつもニコニコしていて、
その笑顔の裏にあるものを、
一旦読み終わったり見終わった後で、
確認したくなるような構成が良く出来ています。
演じた浜辺美波さんは、
原作の雰囲気を、
かなり上手く出していたと思いました。
妻ももう一度見て、
少女の心理を確認したいと言っていましたし、
そうした意味では原作の良いところを、
映画も上手く汲み取っている、
という言い方が出来そうです。

本当は映画を見て泣きたくて行ったのですが、
映画のターゲットからは全く外れていたので、
ほぼ泣けませんでした。
それはちょっと残念ですが、
場違いということなので仕方がないのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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