So-net無料ブログ作成
検索選択
前の5件 | -

岩木一麻「がん消滅の罠 完全寛解の謎」(ネタバレ注意) [ミステリー]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は別件の仕事で都内を廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
がん消滅の罠.jpg
医療系の研究者の前歴のある著者による医療ミステリーで、
第15回の「このミステリーがすごい!」大賞受賞作です。

「余命半年の宣告を受けたがん患者が、生命保険の生前給付金を受け取ると、その直後、病巣がきれいに消え去ってしまうー」
という現象が繰り返し起こるという、
人間消失ならぬ、がん消失という怪事件を推理する、
という話です。

選考委員が「まったく見当のつかない真相」
「史上最高の医療本格ミステリー」
などと真顔で公言しているので、
一体この謎がどのように解かれるのだろうと、
どうせ大したことではないのではないか、
と少しは思いながらも、
凡人の性で何となく気になってしまいます。

これはまあ、2つの謎があるのです。
いずれもがんが消えたり、するのですが、
設定は少し違います。

1つは肺腺癌が全身に転移していて、
それ自体は専門の医療機関で確認されているのです。
余命半年という宣告で保険金が下りるのですが、
標準治療の抗がん剤を使用して、
余命の少しの延長しか期待は出来ない筈なのに、
数か月でがんは全て縮小して消えてしまいます。

これが1つ。

もう1つは何か謎の病院があって、
特別な免疫治療をしているらしいのです。
ある人が人間ドックで初期の肺がんが見つかり、
それが早期なので切除すると、
しばらくして全身の転移が見つかり、
それがその病院の画期的な治療で、
みるみる縮小して消えてしまったり、
治療をやめると悪化したりするというのです。

これがもう1つの謎です。

本を読む前にそれだけの情報で、
どのようなトリックなのか考えてみました。
別に僕でなくても医学をちょっとかじった人なら、
誰でもそう考えると思うのですが、
本物の癌が急に消える訳はないと思うのです。
それがあれば純然たるSFで、
医学ミステリーという枠からは大きくはみ出してしまいます。
そうなると、
消えたのは「〇〇」ではない、
ということになり、
要するにこうしてこうしたのではないかしら、
と何となく答えは1つしかないという気がします。

でも、それだけのことでは、
さすがに素人でもすぐ分かってしまうのではないかしら、
そんなものを「空前のトリック」などと言うのかしら、
と疑問に思って、
悔しい気はしたのですが、
真面目に買って本を読んでみました。

読むと結局はほぼ想像の通りでした。

このように理屈で1方向で考えると、
すぐに1つの可能性しか残らなくなってしまうのは、
所謂「不可能犯罪」のトリックとしては上出来とは言えないと思います。

しかし、一方で多くの人は、
医療というものに一種の呪術性のようなものを期待し、
「私があなたの癌を100%治します」
などと言われれば、
明らかなインチキでも思考停止して信じてしまうようなところがあるので、
そこを上手く突いているという点は、
読者に受けるところがあるようにも思います。

同じような奇跡は実際にはゴロゴロ転がっていて、
有名芸能人の進行癌の報道などに対しては、
絶対に治る筈がないのに、
「奇跡を信じます」と言わないと非難を浴び、
真顔で皆が非論理的で非科学的な奇跡を、
信じて疑わないようなところがあるからです。

従って、そうした先入観や思い込みを、
一種のミスディレクションとして活用していると考えると、
満更低レベルのトリックとも言い切れません。

この作品はトリックはそんな感じのものなのですが、
小説としてはなかなか良く出来ていて、
かなり加筆されて手が入っていると思うのですが、
ミステリー的な小ネタの使い方が上手く、
全体に何かもやもやした不気味な感じというか、
グロテスクな感じがすることも悪くありません。

以下少しネタバレを含む感想です。
必ず本編読了後にお読みください。

必ずよろしくお願いします。

これはフーマンチューもののバリエーションのような作品で、
狂気に満ちた癌研究の第一人者の研究者が、
自分の知識を悪用して、
日本の重要人物に癌を作ってそれをコントロールすることにより、
彼らを強迫して理想の政治を実現しようとする、
というような話です。

本人の癌細胞に自死(アポトーシス)を誘導するような仕掛けをして、
それを大きくしたり小さくしたりする、
というような趣向です。
ただ、末期癌の恐怖を味合わせてから、
それを縮小させるようなことをするのですが、
それは成立しないという気がしました。

癌でもう悪液質のような状態が生じているとすると、
そこで慌てて癌細胞に自死の指令を出しても、
身体全体としてはもう手遅れの可能性が高いように思うからです。

自死させるような遺伝子に組み込んだ仕掛けとは何?、
というのが1つのポイントですが、
そこは昆虫から抽出した毒素みたいなことで、
適当に胡麻化している、という印象です。

それとは別に、
最初に免疫抑制剤をアレルギーの薬と嘘を吐いて飲ませておいて、
他人由来の癌を植え込み、
癌を消したい時にはその免疫抑制剤を中止すると、
拒絶反応で癌が消滅する、
という方法も使われています。
ただ、これも大分無理があって、
他人の癌細胞が生着するような強力な免疫抑制をしておいて、
それが他の医療機関でバレないというのも不自然ですし、
本人はそれを全く知らないのですから、
感染症などで体調を悪くする可能性も高そうです。
また肺癌の細胞をただ注射しただけなのに、
それが原発性の肺癌が全身に転移したのと同じに見えるような広がりで、
うまい具合に生着するというのも随分と不自然に思います。

著者は動物実験の知識はあるので、
癌の動物実験をそのまま人間に適応している訳です。
それはそれでグロテスクな趣きがあるので、
趣向としては成功していると言って良いのですが、
人間の患者さんの実際は、
多分あまりご存じがないのだと思うので、
「とんでもトリック」という感じのものになっています。

ただ、この作品はそのトリック以外の部分に、
そのミステリ―としての妙味があって、
最初は如何にも探偵役に見えた変人研究者が、
事件の根幹に関わっていたり、
勧善懲悪にはならずに、
ラストは次のステップに入るというような捻りも良いのです。

人物もあまり細かく書き込まないことがむしろ成功していて、
ステレオタイプな人物しか出て来ないのに、
何か生々しい感じを出しているのも面白いと思います。

このくらいなら…
という思いもありましたし、
くやしい感じも強くしたので、
眠っていた意欲に、
少し火が点いた感じもしたのです。

ちょっと頑張ります。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

マラソン時の痛み止め使用のリスクについて [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
消炎鎮痛剤とマラソン.jpg
2013年のBMJ Open誌に掲載された、
マラソン時の痛み止めの使用と、
そのリスクについての論文です。

これはつい最近毎日新聞に記事が出たので、
そこで興味を持って読んでみたものです。
そこでは上記の文献にある図を引用して、
マラソン中の消炎鎮痛剤の使用に警鐘を鳴らしています。

内容自体は誤りはないのですが、
ちょっと誤解を招く点があり、
その辺りを今日はご説明したいと思います。

非ステロイド系消炎鎮痛剤は、
プロスタグランジンという炎症物質を抑えることで、
熱を下げ痛みを取るという作用を持つ薬剤で、
飲み薬や座薬として、
また湿布剤の成分としても、
広く使用をされている薬剤です。

その多くが今はOTCにもスイッチされていて、
大々的に宣伝がされているロキソニンはその代表薬の1つです。

ただ、この非ステロイド系消炎鎮痛剤は、
決して副作用や有害事象の少ない薬ではありません。
胃粘膜の血流を低下させるため、
胃潰瘍などの消化管出血の原因となりますし、
腎臓の血流を低下させる作用から、
腎機能低下の原因ともなります。
また、メカニズムは不明の点もありますが、
急性心筋梗塞の再発を増やしたり、
心不全の悪化を誘発したりと、
特に病気のある患者さんにおいて、
心血管疾患のリスクを増加させるような影響もあります。

従って、なるべく非ステロイド系消炎鎮痛剤の使用は、
最小限度に留めるのが望ましく、
身体に負荷が掛かり、脱水などにもなりやすい、
マラソンの時などでは、
使用しないことが適切と考えられます。

ところが…

これは日本では何処まで一般的なことかは分かりませんが、
上記論文を読む限り欧米においては、
マラソンの前に痛み止めを飲むことは、
比較的多くのランナーが行っていることで、
上記論文のデータにおいても、
何とほぼ半数のランナーはマラソン前に痛み止めを服用しています。

これは痛み止めを使用することにより、
マラソン中の筋肉痛が緩和し、
こむら返りなども起こり難くなる、
という考えによっているようです。

しかし、このような安易な痛み止めの使用には、
健康上の問題はないのでしょうか?

今回の研究はドイツのボンで行われたボン・マラソンにおいて、
出場者全員である7048名にアンケート調査を施行。
痛み止めの服用の有無と、
その後の症状や病気の有無を調査して、
その関連性を検証しています。

回答が得られた3913名が解析の対象となっていて、
そのうちの49%に当たる1931名は、
マラソンの前に痛み止めの服用を行っていて、
残りの1982名は使用をしていませんでした。
ほぼ半数が使用しているという、非常な高頻度です。
ただ、薬を飲んでいるような人の方が、
アンケートの回収率は高いという可能性もあるので、
これが実際の頻度と言えるかどうかは分かりません。

痛み止めとして使用が多かったのは、
ジクロフェナク(商品名ボルタレンなど)で、
これが913名、
次に多かったのがイブプロフェン(商品名ブルフェンなど)で、
こちらは722名。
次がアスピリンで141名という順になっています。

有害事象としては、
血尿、消化管のけいれん、消化管の出血、レース中の心血管系問題、
そしてレース後の心血管系問題という項目になっています。
(項目の表記は毎日新聞の記事による)

ここでトータルな有害事象の頻度は、
薬を使用していないコントロール群では4%であるのに対して、
消炎鎮痛剤使用群では16%という高率で、
個々の有害事象についても、
コントロールと比較して薬剤使用群では、
4から10倍という高率で認められました。

高用量の使用としては、
ジクロフェナクは1回1000㎎以上、
イブプロフェンは1回800㎎以上、
アスピリンは750㎎以上が使用されていて、
イブプロフェンの高用量では全体の52%、
アスピリンの高用量では全体の何と87%に、
何らかの有害事象が認められていました。
アスピリンの高用量は全体で39例しか使用はされていないので、
何とも言えないところがありますが、
何と半数近い19例で血尿が見られています。
マラソン中の心血管系問題も、
半数近い19例で認められています。

ただ、そこで問題になるのは、
心血管系問題(CV events)という概念が何を指すのかです。

普通CV eventsと言えば、
狭心症や心筋梗塞、脳卒中などを想像します。
ただ、それが痛み止めを飲むとその半数に認められるというのは、
幾らなんでも多すぎる数値です。
次々と人が倒れる、死屍累々のマラソン大会ということになり、
そんなものが毎年継続される筈がありません。

実際に上記文献の添付資料を見てみると、
この心血管系問題というのは、
動悸や頻脈、不整脈などを感じたかどうかを尋ねているだけで、
そんな症状ならマラソン中にはしばしばありそうですし、
健康上の問題と言えるかどうかすら、
定かではありません。

毎日新聞の記事を書かれた方も、
馴染みのない「心血管系問題」という訳語を、
使用しているのは、
その実際が何であるかを理解した上で、
苦肉の策としてこんな用語を作ったのではないかと思います。

一方で痛み止めの主な使用目的であるマラソン中の痛みについては、
実際にはコントロールと差はありませんでした。
ただし、マラソン中のこむら返りについては、
未使用で3%に発症したのに対して、
痛み止めの使用により1%未満に抑えられているので、
この点では明確な予防効果が認められています。

そんな訳でこのデータは確かに実際のマラソンにおける、
消炎鎮痛剤の使用リスクを明らかにしたという点で、
意義のあるものなのですが、
単純に参加者のアンケートのみを一次資料としていて、
それも回収率は高くはなく、
心血管系問題というのが何処まで病的であるかも明らかではありません。

従って、これをそのまま鵜呑みにして、
比率として有害事象を論じることは科学的とは言えないように思います。

いずれにしても、
痛みを予防する目的でマラソン前に消炎鎮痛剤を使用することは、
安全面では大きな問題のある行為なので、
こむら返りの予防には一定の効果はあるのですが、
使用は控えることが重要であることに間違いはないのだと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


15年の胃癌予防効果(ピロリ除菌とサプリメント) [医療のトピック]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は午前午後ともいつも通りの診療になります。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
15年の胃がん予防の効果.jpg
2012年のJ Natl Cancer Inst誌に掲載された、
14.7年という長期に渡り、
胃癌予防のためにピロリ菌除菌とサプリメントの使用の効果を、
偽薬と比較検証した中国の論文です。

ピロリ菌の感染が胃癌のリスクであることは、
実証された事実ですが、
ピロリ菌を除菌することにより、
実際に長期的にどれだけ胃癌を減らし、
癌による死亡を減らすのか、
という点については、
あまり実証的な研究結果がある訳ではありません。

その意味でこの研究は貴重なものです。

3365名の中国の一般住民(35から64歳)を対象として、
まず胃カメラ検査や血液検査でピロリ菌の感染の有無をチェックし、
感染の陽性者(2258名;全体の67%)を、
クジ引き希望者で2つの群に分けると、
一方は2週間のピロリ菌除菌治療
(アモキシシリンとランソプラゾールで2週間)を行ない、
もう一方は偽薬を使用して、
その後14.7年の経過観察を施行します。

これとは別個にビタミンCとE,
そしてニンニクのサプリメントの予防効果も、
偽薬と比較の上施行されています。

その結果…

ピロリ菌の除菌治療群では3.0%に胃癌が発症したのに対して、
偽薬群では4.6%に胃癌が発症していて、
除菌治療により胃癌の発症は39%有意に抑制されていました。
(95%CI;0.38から0.96)
ただ、これは7年の経過観察では有意にはなっておらず、
今回も信頼区間から見ると微妙な結果です。

そして、胃癌による死亡は、
ピロリ菌除菌群の1.5%と偽薬群の2.1%に認められ、
33%死亡リスクを低下させていましたが、
統計的には有意ではありませんでした。
(95%CI;0.36から1.28)
全ての癌による死亡や総死亡にも有意差はなく、
胃癌を食道癌を併せた死亡リスクは、
胃癌単独よりも除菌の影響が少ない傾向を示しました。

要するにピロリ菌の除菌治療を行なうことにより、
その後ほぼ15年の胃癌の発症率は、
4割程度低下しますが、
それはその方の生命予後に影響するほどではなく、
胃癌そのものは減っても、
胃酸の分泌増加により一部の食道癌がむしろ増える可能性や、
本当に生命予後に関わるような悪性度の高い胃癌は、
減らしていないという可能性などが考えられます。

同時に行われたビタミンやニンニクのサプリメントの効果については、
意外にもビタミン剤の使用において、
胃癌と食道癌を併せた死亡リスクが49%有意に低下していました。
(95%Ci:0.30から0.87)
これは発症リスク自体は減っていないので、
その判断は微妙ですが、
死亡リスクが低下しているという結果は、
このビタミン剤のみでした。

ピロリ菌の除菌で胃癌はなくなるような、
夢物語を主張される方もいるのですが、
実際に証明されているのはこのレベルの結果で、
生命予後に確実に良い影響を与えるという根拠も、
今のところはあまりないということは、
確認しておく必要があると思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

下記書籍発売中です。
よろしくお願いします。

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

誰も教えてくれなかった くすりの始め方・やめ方: ガイドラインと文献と臨床知に学ぶ

  • 作者: 石原藤樹
  • 出版社/メーカー: 総合医学社
  • 発売日: 2016/10/28
  • メディア: 単行本


国産第一号「安心」 [演劇]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日はもう1本演劇の話題です。

それがこちら。
安心.jpg
オクイシュージさんの作・演出による、
国産第一号というユニットの公演「安心」が、
本日まで下北沢の駅前劇場で上演されています。

2010年初演作の再演とのことです。

これは松尾スズキさんのツィートで気が付いて、
即効で予約して直前に行くことを決めました。
これぞアングラ小劇場という感じの、
ダークで破天荒で遊び心に満ちた作品で、
これは観られてとても幸せでした。
思わず販売されていた戯曲も買ってしまいました。

特に演出が優れていて、
1時間50分の上演時間に充実感があります。
ただ、最後に明らかにされる「事件の絵図」に、
やや面白みが乏しいことと、
「全ての地獄はお前の頭の中にある」
というような世界観が、
震災後でテロや現実の暴力に満ちた今には、
ちょっと切実感が乏しい思いはありました。
そう言えば、2010年くらいには、
こうした芝居が多かったような気もします。

以下ネタバレを含む感想です。

ある太っちょの冴えない男が、
何処だか分からない黒い部屋に監禁されています。
そこには謎の男女が5人いて、
司会役の男はそこが「矛盾の家」で、
自分の全てをさらけ出し、自分自身に戻る場所だ、
というような話をします。
それから1人ずつ自分が如何にして悲惨な境遇に落ちたかを、
回想を交えて語り、
過去の光景もフラッシュバックするうちに、
別々に思えた個々の人物の物語が徐々に繋がり始め、
「真相?」が明らかになると、
主人公は最後にある決断を迫られることになります。

入江雅人さんが80年代テイストのダンス教師を怪演して、
川上友里さん演じるストリッパーとダンスに興じるなど、
小劇場的には贅沢なお遊びが満載で、
それがオクイシュージさんの的確な演出の元に、
素敵な出鱈目として楽しめます。

実際の関係が明確ではない複数の男女が、
あるモチーフを中心として果てしない遊びを繰り返す、
と言う点では、
鴻上さんの「朝日のような夕日をつれて」に近い構成です。
そのもっとアングラに傾斜した変奏曲、
と言っても良いかも知れません。

ゲームマスターめいた謎の男がいて、
監禁された状況の中で、
残酷なゲームに興じるという趣向は、
映画の「ソウ」シリーズの影響も感じられます。
乙一みたいな感じもありますよね。

ただ、登場する全員が、
実は1つの物語で結び付けられている、
ということが途中で大体分かってしまうと、
今度は隠された真実とは一体何なのだろう、
というところに観客の興味が移るのですが、
その真実というのが、
主人公が酔っぱらって吐いたゲロですべって、
少女が車の事故に遭った、
というような話だったり、
友達と思って部活の後輩に接したら、
それが相手にとっては迷惑だった、
とかといったような、素直にそうかとは、
とても思えないようなストーリーなので、
何となくもやもやしたものが残ってしまいます。

そして、最終的にはハンマーで全員を殴り殺して、
その場を脱出するのですが、
その段取りの必然性もあまり納得がいきませんし、
オクイシュージさん自身が演じる、
謎のゲームマスターの男の正体も、
結局最後まで分かりません。

「朝日のような夕日をつれて」では、
ある1人の女性の絶望を救うことが出来るか、
というような物語なので、
それを聞いただけで何となく納得がいく気分になりますし、
分からない話で感動することも出来るのですが、
この作品の物語は、
主人公が他人に害を与えないようにビクビクと生きることで、
結果として因果が巡って多くの人を不幸にしてしまい、
自分の本能的な情念を開放することで、
その心の迷路から脱出する、
ということのようですが、
それにしては、
主人公がオドオドしている割には、
後輩に命じて女性をさらったりもしているので、
そこにあまり行動の一貫性がなく、
無作為の悪事のからくりにも説得力がないので、
あまり観客を納得させるような感じには、
ならなかったのが残念でした。

良かったのは演出で、
これは非常にセンスに溢れています。
黒一色のセットの背後に2つの換気扇が廻る正方形の窓が2つあり、
それが非常に巧みに全編で使用されています。
その存在自体が禍々しくて素敵ですし、
不意に肖像画が窓に現れる瞬間もショッキングです。
ラストには「安心」の2文字が現れるという趣向も凝っています。
暗転を巧みに利用した舞台転換も鮮やかですし、
ストロボの効果的な使用や、
ラストの大殺戮ではビートルズをバックに盛大に血を流し、
スペクタクル化した趣向も効いています。

役者も曲者を揃えていて、
大仰なアングラ芝居がさく裂するのも楽しい時間です。
ただ、女性陣はもっと際どい芝居が欲しかったという気もしましたし、
謎の男を演じたオクイシュージさんは、
役者としては少し弱かったと思いました。
たとえば、当日観劇もされていた師匠筋の松尾スズキさんが、
同じ役を演じられたとすれば、
また別の次元の作品が生まれたような気がします。
オクイさんが演じると、
何か矢張りもう少し説明を求めてしまうので、
それが結局ないというのが、
非常に物足りない気がするのです。

いずれにしても小劇場の妙味が、
美しくグロテスクにデコレーションされた素敵な作品で、
こうした作品はまた是非観たいと思いました。

頑張って下さい。
欲を言えばオクイさん本人の役はもっと別のものにして、
秘められた物語は、
もっとシンプルでかつ情緒を揺らすようなものにして下さい。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。

「ミス・ペレグリンと奇妙なこどもたち」 [映画]

こんにちは。
北品川藤クリニックの石原です。

今日は日曜日でクリニックは休診です。

今日は休みなので趣味の話題です。

今日はこちら。
ミス/ペレグリンと奇妙なこどもたち.jpg
ティム・バートンの新作ファンタジー映画を、
新宿の映画館で観て来ました。

ティム・バートンはそこそこ好きなのですが、
「シザーハンズ」以外は、
面白いのに何かが物足りないというか、
何処か決定的な部分で少ししくじっているような感じが、
観終わるといつも残ってしまいます。

今回の作品はオープニングの原色のフロリダの風景から、
如何にもティム・バートンという絵作りでいいな、と思いますし、
時空を超えて永遠に同じ1日を繰り返す「奇妙なこどもたち」に出会うまでも、
ややまどろっこしい感じもありますが、
なかなか上手く出来ています。

少し不満に感じるのはその後の展開で、
対決する敵がかなり間抜けで、
隙だらけの感じなので物語が盛り上がりませんし、
肝心のこどもたちの親代わりのミス・ペレグリンが、
実際には殆ど活躍しないのも物足りません。
主人公の少年も、
簡単に親を捨てて奇妙なこどもたちと行動を共にしてしまうので、
あまり情感や切ない気分が、
醸成されることもないのです。

このように物語としての練り上げは不足しているのですが、
その代わりに奇妙なこどもたちや、
まがまがしい怪物や悪党などのビジュアルは、
ディテールまで作り込まれていて素晴らしく、
大量の骸骨騎士なども参戦する活劇や、
沈んでいた幽霊船が浮上するスペクタクルなどまであって、
2時間余りを退屈させることなく見せきる技量は、
いつもながら素晴らしく魅力的です。

そんな訳でバートンファンには楽しめる作品ではあるのですが、
物語が重層的に盛り上がるという感じではないので、
風変りなビジュアルを楽しめない方には、
退屈に感じるかも知れません。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。
前の5件 | -
メッセージを送る