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イグザレルト(リバロキサバン)使用中の凝固検査について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理をして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

今日は小ネタですが、
診療の覚書的なものです。

イグザレルト(一般名リバロキサバン)
という新薬が先日発売されました。

これはⅩaという凝固因子の阻害剤で、
血液が固まる血栓の産生を抑える効果の薬です。
こうした薬を抗凝固剤と呼んでいます。

飲み薬の抗凝固剤は、
長くワーファリン(一般名ワルファリン)
という薬が使用されていましたが、
食事の制限が必要であったり、
定期的に血液検査をして、
その量を調節するという煩雑さがあり、
代わり得る薬の開発が望まれていました。

その1番手が、
昨年発売された、
直接トロンビン阻害剤というタイプの、
ダビガトラン(商品名プラザキサ)と言う薬で、
2番手がリバロキサバンです。

しかし、
実際にダビガトランの使用が開始されてみると、
特に高齢者で重篤な出血の合併症が、
相次いで報告され、
問題となったことは、
これまでにも何度か触れました。

問題は特に高齢者において、
腎機能の低下により、
ダビガトランの効果が不安定となり、
血中濃度が急激に高まって、
出血傾向の生じることがある、
ということです。

ワーファリンにもそうした効き過ぎはありますが、
PT-INRという数値で、
その効果の程度を簡単に測定することが出来るので、
適切な間隔で検査を行なっていれば、
不測の事態をある程度回避することが可能になります。

ダビガトランについては、
そうした薬の効き方を評価する、
良い指標がない、ということが、
逆に問題となったのです。

凝固の機能を見る上での検査の指標は、
ワーファリンで使用されるPT-INRと、
aPTT(活性化部分トロンボプラスチン時間)が、
その代表です。

ワーファリンはその効きを、
PT-INRを測定することにより、
ほぼ完全に把握することが可能です。
プラザキサの場合、
PT-INRは殆ど役には立たず、
aPTTはそれが高度に延長している場合には、
一定の指標にはなりますが、
それほどの異常値でなくとも、
出血傾向が高度に生じることが有り得ます。

2番手の新薬として発売されたイグザレルトの場合、
PT-INRがある程度状態の把握に使用可能だ、
と考えられています。

こちらをご覧下さい。
イグザレルトとPTのグラフ.jpg
イグザレルトの反復使用時の、
1日24時間のPT-INRの数値の変化を示したものです。

PTは朝の薬を飲む前には、
ほぼ正常の値を示しますが、
3~4時間で比較的急激に延長し、
その用量にもよりますが、
正常の2倍から3倍に延長します。
そして、24時間後には、
元の状態に戻るのです。

ワーファリンの使用時に、
同様の検討をすれば、
数日以上の連続した適正量の使用により、
PT-INRは正常の2倍程度に延長し、
それは基本的に24時間持続します。
そして、
一旦ワーファリンを中止しても、
すぐに元に戻ることはなく、
ジワジワと数値は低下して、
飲まない状態と同じになるのは、
概ね1週間後になります。

ここに、
イグザレルトという薬の、
非常に面白い性質があります。

現状明確な指針は示されていませんが、
外来で受診の当日のみ、
イグザレルトを飲まないで、
朝の早い時間に来てもらい、
採血でPT-INRを測定。
その後すぐに薬を飲んで頂くのが、
最も調節に適した方法だと、
今の時点では思います。

この時の数値は、
ほぼ正常と同じである筈で、
それがたとえば1.5倍以上に延長しているとすれば、
何らかの原因で、
イグザレルトの血中濃度が上昇していることが考えられ、
その原因を検索する必要性が生じます。

ただ、PT-INRという数値は、
元々ワーファリンのコントロール用に、
調整されているので、
それをそのままイグザレルトの効き過ぎの判定に、
使用することが適切なのか、
という問題点は残ります。

端的に言えば、
欠点のない抗凝固剤というものはなく、
その完璧なモニタリングというものもありません。
これまでワーファリンしかなかった選択肢が、
今回広がりましたが、
出血のリスクのない抗凝固剤はなく、
その有効性と安全性とを、
慎重に天秤に掛けながら、
個々の患者さんにとっての、
最良の選択を模索するしかないような気がします。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

福島第一原発北西37キロの被ばく調査結果を考える [科学検証]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は水曜日なので、
診療は午前中で終わり、
午後は産業医の面談に廻る予定です。

それでは今日の話題です。

今日はこちら。
鎌田先生福島論文.jpg
今年の3月のJournal of Environmental Radioactivity誌に掲載された、
福島第一原発北西37キロ付近における、
住民の被ばく量を解析した論文です。
第一著者は広島大学名誉教授の、
鎌田七男先生です。

この調査は昨年の5月初めから6月に掛けて、
福島県飯舘村と川俣町の住民15名の、
原発事故後の生活の聞き取り調査と、
尿の放射性セシウムと放射性ヨードの測定を行ない、
その結果から、
住民の被ばくの程度を推計したものです。

皆さんもよくご存知のように、
放射性物質による被ばくには、
内部被曝と外部被爆とがあります。

今回の調査においては、
外部被爆は行政により公表されている、
モニタリングポストの空間線量率を元に、
住民のアンケート調査から、
その住民が1日のうちどの程度の時間を、
外で過ごし、
どの程度の時間を家の中で過ごしたか、
また住居は木造であったか鉄筋コンクリートであったか、
といった情報から、
1日当たりの被爆線量を推計し、
それを加算して累積実効線量を計算しています。

これがまず一点。

ただ、この調査は、
福島県全域で行なわれている、
アンケート調査でも、
それが適切に行なわれれば、
その推計は可能となる性質のものです。

次に内部被曝の調査として、
放射性物質の放出開始を3月12日として、
その54日後の5月5日と、
78~85日目の5月29日~6月6日に、
同じ住民15名に、
尿中の放射性セシウム(134と137)および、
放射性ヨード131の、
測定を行なっています。

この尿の測定値から、
内部被曝量を推計しようと言うのです。

しかし、いつどれだけ被曝したか分からないものを、
たった2回の測定で、
どれだけトータルな被曝量を推定出来るのでしょうか?

何となく無理がありそうな気がします。

こちらをご覧下さい。
福島5月の尿中セシウムとヨードの表.jpg
これが文献にある、
トータルな生データです。
基本的にこの文献において、
内部被曝の推計に使用されるデータは、
これだけのものです。

この表の上半分が5月5日の測定で、
下半分が5月29日から6月6日の測定です。

放射性セシウム自体は、
全ての事例において、
2回の測定共に検出されています。

初回の測定で最も検出量が多かったのは、
G2とされた方で、
セシウム134は9.14±0.93、
それが2回目の測定では1.89±0.46と、
1ヶ月で著明に減少しています。

しかし、逆にG1の方は、
2回目の測定の方が、
セシウム134は倍増しています。

つまり、昨年の5月の時点においても、
放射性セシウムの内部被曝は、
継続している、
ということが分かります。

測定値は個別のケースによって、
1ヶ月の間隔を置いても、
増加したり減少したりその経過は様々です。

要するに被曝が継続している方もいれば、
そうではない方もいるのです。

これでこの2回の測定から、
トータルの内部被曝の預託実効線量を、
換算するのは非常に困難なように思えます。

実際はどうだったのでしょうか?

こちらをご覧下さい。
福島外部被爆の累積実効線量の表.jpg
実際の表は横長なので、
2分割してお示しします。
これは表の左半分の部分です。
左には最初の表にある個人の識別番号が示され、
右には算出された外部被爆の累積の実効線量が表示されています。
単位はミリシーベルトです。

次をご覧下さい。
福島内部被曝の実効線量の表.jpg
こちらはオリジナルの表の右半分です。
各人の尿中セシウムの測定値を元にした、
セシウムの預託実効線量と、
同じく尿中ヨード131の測定値を元にした、
ヨード131の甲状腺等価線量の計算値が示されています。

僕の読み込みが未熟なのかも知れませんが、
文献の説明を読む限り、
2回目の測定は全く無視され、
1回目の測定のみから、
預託実効線量が計算されています。
従って、外部被爆の実効線量も、
1回目の測定が行なわれた、
5月5日までの分が計算されているのです。

放射性物質は3月12日~15日に掛けて飛散し、
周辺の土壌や水、野菜の葉の表面などに沈着します。
3月20日以降は食品の出荷制限等が行なわれたので、
それ以前の時期にメインの被曝は起こったと想定し、
実際には20日の1日で被曝したものと仮定して、
全ての内部被曝の計算が行なわれています。

しかし、どうなのでしょうか?

2回目の測定で、
数値が上昇している方が、
いることから明らかなように、
食事や水などを介した内部被曝が、
3月20日の1日で起こったとは到底考えられません。

この計算にはかなり無理があるように、
僕には思えてなりません。

ただ、僕の手元に別の研究グループの方による、
尿中の放射性セシウムからの、
実効線量の推測法の資料があるのですが、
それは毎日少量ずつの被曝があることを仮定した計算になっていて、
それを利用して上記のデータを換算してみると、
勿論違いはありますが、
それほど大きくは実効線量自体は変わりません。
従って、被曝の仕方が違っても、
ラフな計算としては、
左程のくるいは生じないようです。

それでも、2回目の測定値を元にして、
同じ計算をすれば、
それはまた別の結果が出ることになるのは間違いがありません。

放射性ヨード131に関しては、
もう少し話はシンプルで、
最初の測定においても、
検出されたのは5名のみです。
そして、その全例で2回目の測定では、
未検出となっています。
まあ、ヨード131の半減期の短さから言えば、
これは当然の結果と言えなくもありません。
放射性ヨードの被曝を検証するには、
少なくとも被曝後1ヶ月以内の計測が必要であった、
と考えられます。

ヨードの被曝も、
同じように3月20日にのみ起こったものとして、
その実効線量が計算されています。
ただ、こちらは半減期が短いので、
そう仮定してもそれほど大きなくるいはないのです。
その結果は甲状腺の等価線量が27~66ミリシーベルト、
と試算されていますが、
これは甲状腺へのヨードの取り込みが、
摂取量の3割であるとの仮定のもので、
実際にはこれはかなり幅があり、
1つの参考程度にしか言えないのではないかと思います。

ちょっとミスがあり、
表1では、
G3は10歳で48キロという巨体ですが、
G5は14歳で30キロという細身で、
表2ではこの2人の年齢が入れ替わっています。
おそらく表2が正しく、
表1は年齢が入れ替わっているようです。
どうも、こういう単純なところにミスがあると、
この雑誌の査読はどうなのかしら、
と疑問になりますし、
個々の計算の正しさも、
ちょっと不安に感じます。

こんなことは些細なことだと、
思われる方が多いかも知れません。

しかし、僕は学位論文の時など、
こうした誤植の修正に、
散々苦しんで何度も遣り取りをしましたし、
こうした論文にとって数字は命であり、
その部分に誤りがあることは、
少なくともまともな雑誌であれば、
絶対に許されないのだと、
尊敬する先生から教わりましたから、
こうしたミスのある論文を、
あまりまっとうなものとは思えません。

そう思ってよく見ると、
あれ、どうしてこちらの人よりこちらの人の方が、
実効線量が多くなっているの? と、
誰か詳しい方に検算して頂きたいのですが、
どうも腑に落ちない数値が、
所々にあります。

元データもG2の方のセシウムの数値の減り方など、
自然に減ったにしては有り得ないような数値に思えます。
ほぼ同じか少し遅れた時期に、
NPO法人の方が測定した数値を見ても、
1ヶ月で半減くらいはしても、
それより著明な減少はないからです。
セシウムの生物学的半減期のデータからしても、
有り得ない感じがします。
また、G1の方のセシウム134が、
1ヶ月後に倍以上になっているのも、
測定に同意されるくらいですから、
慎重な生活はされていたのだと思いますし、
腑に落ちないものを感じます。

更にはセシウム134>セシウム137となっている測定値が多く、
これも絶対ないとは言えませんが、
一般論から言えば、
放出量はほぼ同じで、
半減期は134の方が短いのですから、
そうした数値が多いことは、
データの信頼性に疑義を呈するものではないかと思います。

今回のデータから僕の思うことは、
矢張り本来はもっと多数例で、
尿中の放射性物質の測定は行なわれるべきで、
内部被曝の経過を、
経時的に追うことが重要だ、
ということです。

NPO法人などが個別に計測を行なっているのは、
その点で意味のあることだと思います。
内部被曝のデータは、
計測しなければ得られませんし、
今回の文献のデータからも分かるように、
そこに一定の傾向はなく、
個別の事例の経過は様々です。
本来はちょっとした注意で避け得る内部被曝を、
それが健康上大きな問題のないレベルであっても、
敢えて受ける必要はないからです。

もう1つは、
そうは言っても尿中の測定のみから、
その被曝量を、
身体に与える実効線量のような形で、
正確に推定することは非常に困難で、
特定の時点での被曝と仮定して数値を出し、
○○シーベルトだからまだ安心、
などと言うのは、
実際にはあまり意味のないことなのではないか、
ということです。

内部被曝の正確な身体への影響を、
数値化することは実際には非常に困難なので、
確かにそれを数値化して比較することには、
一定の意味はありますが、
その数値が一人歩きすることは、
あまりあるべきではないと思います。

最後にこのデータの解釈ですが、
たとえばG1という方を見て頂くと、
5月5日までの外部被爆は推計で8.7ミリシーベルトで、
その間のラフな計算による内部被曝は、
セシウムが0.110ミリシーベルトで、
ヨードが甲状腺の等価線量で66ミリシーベルト。
これは預託実効線量としては、
組織加重係数を0.04として2.64、
0.05として3.3ミリシーベルトです。

ここにおいて、
セシウムの内部被曝は、
外部被爆やヨードの内部被曝と比較すると、
かなり無視出来るほど少ない、
という言い方が出来ます。
それは端的に言えば物理学的半減期が長いからです。

実際にはヨード132のような、
より半減期の短い核子の影響もあり、
それは実証は不可能だけれど、
無視は出来ない性質のものだ、
ということも分かります。
内部被曝により身体に与える影響は、
むしろその方が大きい可能性があるからです。

放射性ヨード以外の内部被曝は、
基本的に問題にはならない、
という専門家の発言は、
こうしたことをその裏打ちにしているのです。

ただ、内部被曝の推計値は、
多くの仮定の元にラフに計算されていて、
その仮定のうちの1つに変化があれば、
簡単に数倍になるような可能性もあることは、
理解しておく必要があるのではないかと思います。

今日は昨年の5月~6月に測定された、
尿中の放射性物質の測定値の文献を考えました。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

抗血栓剤の併用を考える [仕事のこと]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は胃カメラの日なので、
カルテの整理などして、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

数日前にご質問のあった事項について、
僕なりにまとめておきたいと思います。

抗血栓療法というのは、
脳や心臓の血栓症に対して、
その再発予防としての有効性は確立しています。

脳卒中にしても心筋梗塞にしても、
最終的には血の塊により、
血管が詰まることにより発作が起こります。

ここにはまず血管に動脈硬化の変化が起こったり、
他の炎症性の変化が起こったりして、
血管が詰まり易くなる、
という状況があり、
血の塊が出来易い、
という状況もあって、
それが相俟って発作が起こると考えられます。

この発作の再発予防のために、
通常抗血栓療法が施行されます。

抗血栓療法に使用される薬剤には、
大きく分けると、
抗血小板剤と抗凝固剤とがあります。

血管に傷が付くと、
まず血小板がそこに集まり、
一種の糊のようになって、
出血を止めます。
それで止められないような傷になると、
今度は血液の一部が自ら固まって、
出血を止めます。

抗血小板剤というのは、
その糊を出来難くする薬で、
抗凝固剤というのは、
血が固まるのを抑える薬です。

抗血小板剤には、
そのメカニズムの異なる、
幾つかの種類があり、
そのため1種類の抗血小板剤で、
その効果が不充分と判断されると、
2種類以上の薬剤が併用されます。

主に使用されるのは、
アスピリンとチクロピジン(商品名パナルジンなど)、
クロピドグレル(商品名プラビックス)、
シロスタゾール(商品名プレタールなど)、
そしてジピリダモール(商品名ペルサンチンなど)です。

現在よく使用される併用は、
アスピリンとジピリダモールの併用と、
アスピリンと、
クロピドグレルもしくはチクロピジンの併用です。

アスピリンと、
それ以外の抗血小板剤の作用のメカニズムには、
明確な違いがあるので、
その意味でその併用は、
2つの作用点でより強い効果を生む、
という利点があります。

実際、アスピリンとジピリダモールの併用は、
脳梗塞の再発予防効果が、
アスピリン単独より高いことが、
世界的に評価されていますし、
アスピリンとクロピドグレルの併用は、
心筋梗塞の再発予防に、
アスピリンを上回る有効性が確認されています。

ただし、
抗血小板剤の併用は、
単独の使用よりも、
確実に出血性の副作用を増やす、
という欠点があります。

特に問題になるのは脳出血と消化管出血です。

ある日本のデータによると、
抗血小板剤の単独の使用より、
2剤の併用による使用では、
重症の出血系合併症は、
1.21%から2.0%に増加するとされています。

特に日本では欧米と比較して、
脳出血や出血性の脳梗塞の頻度は、
高いと考えられていて、
その意味で欧米主体のデータを、
そのまま適応してその有効性と安全性とを評価するのは、
危険ではないかと思います。

抗凝固剤は凝固そのものを抑える薬ですから、
その効果が高い反面、
一旦出血系の合併症が起こった場合には、
抗血小板剤より重症化し易いという欠点があります。

そのため、抗凝固剤と抗血小板剤との併用は、
より慎重に考える必要があります。

飲み薬の抗凝固剤として、
古くから使用されて来たのはワーファリン
(一般名ワルファリン)ですが、
最近になってまずダビガトラン(商品名プラザキサ)、
今年になりリバロキサバン(商品名イグザレルト)が、
相次いで新薬として発売されました。

ワーファリンは、
慢性心房細動による脳塞栓症の予防や、
静脈血栓症による肺塞栓症の予防には、
その効果が確立していますが、
納豆を食べられないなど食事の制限が必要で、
多くの薬と相互作用があり、
その効果を適切に維持するのが難しい、
という欠点があります。
新規の薬剤はそうした欠点が少なく、
量の調節や食事の制限の必要ない抗凝固剤として、
非常な注目を集めましたが、
矢張り出血性の副作用が見られ、
プラザキサによる重篤な事例が相次いで報告され、
問題となったのは皆さんご存知の通りです。

ワーファリンと抗血小板剤の併用は、
先ほどのデータによると、
抗血小板剤単独では1.21%の、
出血性の重症の合併症の発症頻度が、
3.56%に増加するという結果が出ています。
ワーファリン単独が2.06%で、
これは抗血小板剤2剤の併用と、
ほぼ同等の頻度です。

要するに出血のリスクから言うと、
抗血小板剤単独<抗血小板剤2剤の併用≒ワーファリン単独<ワーファリンと抗血小板剤の併用
ということになります。
新しい抗凝固剤については、
まだその評価は確定されたものではなく、
場合によってはワーファリンを上回る可能性もあります。
もう1つ大事なことは、
この比較の時のワーファリンのリスクは、
概ねPT-INRという数値が、
2程度にコントロールされている、
という条件が付くことです。

つまり、
ワーファリンと抗凝固剤との併用は、
効果もある代わりに、
最も出血の起こり易い組み合わせでもあります。

従って、
ワーファリンと抗血小板剤との併用は、
充分にそのリスクと効果とを、
吟味した上で決める必要があり、
僕は現時点で、
僕個人の判断で両者の併用を行なうことはありません。

新薬のプラザキサとイグザレルトに関しては、
現時点では他の抗血小板剤との併用は、
禁忌ではありませんが、
原則は推奨はされていません。

抗血栓療法の血栓症予防効果は、
高いレベルで確立したものですが、
出血系の合併症のリスクとは、
常に無関係ではなく、
特に複数の薬剤を併用する場合には、
患者さんの病態に合わせた、
慎重な判断が重要ではないかと思います。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

ロタウイルスワクチンによる腸重積の発症について [医療のトピック]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

朝から書類を少し書いて、
それから今PCに向かっています。

それでは今日の話題です。

日本で初めて採用された、
グラクソ社のロタウイルスワクチン「ロタリックス」の、
市販直後調査の中間報告が先日発表されました。

これは平成23年11月21日の発売から、
平成24年2月20日までに、
一般の医療従事者から報告された、
副反応の事例を集計したものですが、
そこでこの3ヶ月に8例の腸重積の事例が報告されていて、
製薬会社の方の話では、
5月の連休明けの時点で、
確認された報告数は17例を超えている、
ということでした。

腸重積とはどのようなもので、
その報告数が17例というのはどのような意味を持ち、
実際に接種を行なう私達医療者と、
実際に接種を受けるお子さんのご家族は、
それをどのように理解するべきなのでしょうか?

今日はその点を僕なりの立場から、
まとめておきたいと思います。

ロタウイルスというのは、
小さなお子さんの嘔吐下痢症の、
代表的な原因ウイルスの1つです。

この病気は日本のような医療水準の国では、
致死率の高い病気ではありませんが、
入院の必要になるケースがしばしばあるなど、
ご家族の負担が大きく、
それを軽減することが、
ワクチンを接種してこの病気を予防する、
主な理由になります。

今使用されているロタリックスというワクチンの前に、
ロタシールドというワクチンが海外では開発され、
それが腸重積という副反応のために、
発売中止となった、という経緯があります。

腸重積というのは、
乳幼児期の腹痛で、
重症化するもののうち最も一般的な病気の1つで、
まだ発達の未熟な腸が、
下方の腸に二重に入り込むことによって、
一種の腸閉塞を起こすものです。
お子さんは急に不機嫌になって顔は青ざめ、
嘔吐し、時に血便が見られます。

年齢は主に3ヶ月~1歳までに起こります。

腸重積の原因は不明ですが、
アデノウイルス感染により、
稀に腸重積が起こることが報告されています。
このメカニズムは明確に分かっている訳ではありませんが、
腸重積では腸間膜リンパ節が腫れている所見がしばしばあり、
そのリンパ節からアデノウイルスが検出されています。

ただ、ロタウイルスの自然感染により、
合併症で腸重積が生じるかどうかは、
まだ結論の出ていない事項で、
そうした報告もありますが、
少なくとも現在までに、
明確にロタウイルス腸炎で腸重積が合併する、
という証拠はありません。

ロタシールドという、
最初に広く使用されたロタウイルスワクチンで、
腸重積の副反応の発症が、
問題になった所以がここにあります。

ロタシールドというのは、
猿のロタウイルスを元にした、
ロタウイルスの生ワクチンで、
市販後の副反応調査において、
特に初回接種後3日~31日後に、
腸重積の事例が多く報告されました。

その後の複数の疫学研究の結果から、
初回接種後3日~7日間に限ると、
未接種者の30.4~58.9倍の、
相対リスクの有意な増加を認めました。

最終的に初回接種後約1万人に1人の割合で、
腸重積の発症リスクがある、
という数字が、
よく資料として書かれています。

ただ、これは自然発症の腸重積を含めたものではなく、
自然発症に上乗せして、
それだけの増加がある、
という意味合いです。

たとえば、1歳未満の人口での、
腸重積の発症率は、
1万人に1人より、
統計的には多い場合がありますが、
そのことと比較する数字ではないのです。

つまり、乳幼児の腸重積の発症率は、
数千人に1例であるのだから、
ワクチンでの発症率が1万人に1人であっても、
特に問題にはならない、
というような言い方をしてはいけません。
人為的に起こされた重篤な副反応の頻度が、
1万人に1例を越えた場合には、
そのワクチンは使用するべきではない、
と考えるべきなのです。

現行使用されているワクチンの中で、
おたふくの国産生ワクチンは、
その副反応として、
2000接種に1例程度の無菌性髄膜炎の発症を、
来たすことが確認されていますが、
それが使用中止にならないのは、
自然感染のおたふくでは、
もっと高頻度に無菌性髄膜炎を発症するからです。
ただ、以前にも何度か触れましたが、
僕はその判断は個人的には賛同出来ません。
もっと安全性の高いワクチンを、
選択するべきだと思うからです。

ロタウイルスの場合、
自然感染では原則的に腸重積を発症しない、
と考えられているので
(偶発的な発症は有り得ます)、
ワクチンによる発症が、
より大きな問題と考えられるのです。

さて、ロタシールドは腸重積のリスクのために発売中止となり、
その後新たなロタウイルスワクチンとして開発されたのが、
現在使用されているロタリックスです。
ロタリックスはヒトに感染するロタウイルスを使用した、
1価の弱毒生ワクチンです。

ワクチンの有効性はほぼ確立されたものですが、
問題は腸重積の発症リスクです。

こちらをご覧下さい。
ロタリックスの安全性論文.jpg
2006年のthe New England Journal of Medicine誌に掲載された、
ロタリックスの有効性と安全性についての論文です。

この臨床研究では、
フィンランドと南アメリカにおいて、
お子さん3万人にロタリックスの接種が行なわれ、
対照として効果のない偽のワクチンが、
同じく3万人余のお子さんに接種されています。
接種は2回で、
概ね生後2ヶ月と4ヵ月に施行されています。

その結果…

初回接種の31日後までに、
ロタリックス群で1名、
偽ワクチン群で2名のお子さんが腸重積になり、
2回目の接種後31日以内には、
ロタリックス群も偽ワクチン群も、
それぞれ5名のお子さんが、
腸重積と診断されています。

つまり、トータルで、
ロタリックス群では6名、
偽ワクチン群では7名のお子さんが、
副反応の可能性のある期間に、
腸重積に罹患しています。

解析するまでもなく、
違いがない、という結果であったことは、
お分かりになると思います。

つまり、2ヶ月齢から4ヵ月齢くらいのお子さんで、
腸重積を発症する率は、
5000人に1例くらいで、
それがロタウイルスのワクチン接種で、
増加するという傾向は認められませんでした。

仮に、腸重積がワクチンの副反応であるとすれば、
ロタシールドの知見から、
初回接種の後の方がより多い筈で、
2ヶ月齢での腸重積の発症は稀ですから、
初回接種後の腸重積の発症率が高ければ、
それはワクチンの副反応であった可能性が高い、
と判断出来るのです。

こうした臨床試験の結果から、
ロタリックスにはロタシールドのような、
腸重積の副反応はない、
という判断の元に、
世界的にこのワクチンの接種が開始されたのです。

それで、
今回の日本の市販直後調査の、
中間報告結果に戻ります。

使用後3ヶ月で8例、
ロタリックス接種後31日間以内の、
腸重積の発症が報告されています。
その後事例は増え17例に達しています。
(5月連休後くらいの時点の話です)

3ヶ月での接種数は5万人~10万人と推定され、
多く見積もると、
これだけで1万人に1例の発症を優に超えます。

重要な点は、
これは全ての事例が報告された訳ではない、
ということです。
あくまで医療従事者の自発的な判断による報告なので、
実際には発症していて、
報告されていない事例は、
当然存在します。
つまり、この比率は、
最小に見積もっても、
この程度の発症はある、
という意味に理解する必要があります。

調査の詳細はまだ発表されていません。
唯一概要が記載されているのは、
13週でロタリックスとBCGと肺炎球菌ワクチンとを、
いずれも初回で同時接種した事例です。

接種後3日後に嘔吐と不機嫌があり、
腸重積と診断されています。

ロタウイルスワクチンは、
生後6週からの接種が可能で、
2ヶ月齢での接種開始が推奨されていますから、
この事例の接種方針は、
個人的には疑問です。

13週でまだ全てのワクチンが、
未接種の状態であったとすれば、
ロタウイルスワクチンの初回接種を薦めるのはリスクがある、
と考えるべきではなかったでしょうか。

問題は腸重積の発症週齢分布です。

先の文献にもありますように、
2ヶ月齢と4ヶ月齢では、
腸重積の自然発症率はかなり異なるのです。
これがたとえば2ヶ月齢の事例は殆どないとすれば、
腸重積がワクチンの副反応であった可能性は、
かなり低くなりますし、
仮に月齢の低い方が頻度が多いとすれば、
ワクチンの副反応である可能性が、
非常に高くなります。

現在のワクチン行政は、
専門家も製薬業界も、
「ワクチン推進の流れを何が何でも止めたくはない」
という意向が垣間見え、
報告書においても、
自然発症での比率と、
違いがないことが強調されています。

また、7月からは接種者1万人例レベルの、
追跡調査を予定しているということで、
以前と比べれば、
そうした対応は早い、
と思います。

僕の個人的な現時点での見解は、
この接種後3ヶ月の取りまとめの時点で、
これだけの事例が既に出ているという事実は、
矢張り意味のある可能性が高い、
と考えるべきで、
腸重積の自然発症が多くなる時期より前に、
極力初回接種は済ませるべきだと思いますし、
ワクチンに関連する腸重積の、
日本での発症頻度については、
現時点ではまだ不明であり、
そのリスクはあるという点を、
充分ご家族には理解して頂いた上で、
その接種の可否を決めるのが良いのではないかと考えます。

今日はロタウイルスワクチン接種後の、
腸重積についての話でした。

それでは今日はこのくらいで。

今日が皆さんにとっていい日でありますように。

石原がお送りしました。

南山城(みなみやましろ)仏像賛 [仏像]

こんにちは。
六号通り診療所の石原です。

今日は日曜日で診療所は休診です。
いつものように、
駒沢公園まで走りに行って、
帰りに強烈な便意に襲われ、
「もう駄目か…」
と何度か思いながら、
漸く家に辿り着いてトイレに駆け込みました。

過敏性腸症候群の方は、
毎日こうした症状と闘っているのだな、
と思うと、
つくづくその辛さが心に響きます。

休みの日は趣味の話題です。

先日奈良に行きましたが、
今回最も感銘を受けたのは、
京都の奈良県との境に近い、
南山城と呼ばれる地域の、
小さなお寺の古い仏像を拝観したことでした。

南山城は木津川という川が流れ、
勿論今のことですから、
同志社大学が忽然と姿を現したり、
巨大なショッピングモールが、
潤いなくそそり立っていたりもするのですが、
全体としては、
狭い県道の周辺に、
のんびりとした田園が広がっている、
郷愁を誘うような地域です。

南山城は奈良の東大寺や興福寺に、
川を利用して大量の木材を送る、
建材調達所のような役割を果たし、
一時は古代の都が置かれたこともあります。

そして、東大寺や興福寺に、
関連のあるお寺が昔からあり、
そこには古い仏像があって、
都市部よりむしろ大切に、
その仏様が守られています。

奈良からも近いこともあって、
仏像の藝術作品としての質も高く、
年代が古くは奈良前期の白鳳時代から、
平安初期の作例が多いのもその特徴です。
こうした地方の古寺はあちこちにあっても、
これほど古い時代の優れた仏像が、
揃っている場所はそうはありません。

まず拝観させて頂いたのが、
寿宝寺というお寺です。
ここは田舎の住宅地にあって、
本当に小じんまりとしたお寺です。
予めお電話をしておいてお寺のご都合を伺い、
本堂の傍の小さな収蔵庫の扉を開けて頂きます。

そこにいらっしゃる仏様がこちら。
寿宝寺千手観音.jpg
画像はお寺で購入したパンフレットのものです。
飛鳥園さんのお写真です。
勝手な引用なので、
差し障りのあるようでしたら、
ご指摘頂ければ削除します。

平安中期の作とされています。
手が千本揃った千手観音で、
作例は唐招提寺や大阪の藤井寺のものくらいしかなく、
非常に珍しいものです。
その両側には2躯の五大明王像が、
脇侍のように並んでいます。
ただ、勿論そんな組み合わせはないので、
これは後から並べたものです。

ちょっと厳しい面立ちをしていますが、
これは光の当たり具合によって、
表情が変化するのです。
ご住職がその変化を実演して頂けます。

非常に保存が良く、
勿論ある程度の補修はされているのしょうが、
千本の腕の1つ1つまで、
見事に揃っていますし、
木肌をそのまま活かした色彩も美しいのです。

金箔も漆も貼らないこうした様式は、
地方仏の特徴ですが、
この仏様は都の仏様に負けない気品と繊細さがあります。

幸先がよいので気を良くして、
次のお寺に廻ります。

寿宝寺から車で南に5分ほどで、
蟹満寺に至ります。

田園の中にひっそりとある、
これも小さなお寺です。
本堂の写真がこちら。
蟹満寺本堂.jpg

本当にこじんまりとしていて、
このくらいの規模のお寺は、
都会にもよくあります。
しっかりとその土地と結び付いた感じがあって、
法隆寺のような、
骨董品か博物館のようなお寺とは違います。
最近建て直されたという本堂は、
ちょっとガッカリの雰囲気ですが、
お堂に一歩足を踏み入れると驚きます。

堂々たるご本尊がこちら。
蟹満寺本尊.jpg
これもパンフレットからのお写真です。
奈良前期、白鳳時代の金銅仏のご本尊、
釈迦如来様です。
勿論国宝に指定されています。

この時代に建立された身の丈を超える金銅仏で、
藝術性にも優れ、
ほぼそのままの形で残っているのは、
他には薬師寺のご本尊くらいしかありません。

そのお方が、
片田舎の小さなお堂に、
鎮座していること自体が、
もうただ事ではありません。

薬師寺のご本尊とは違い、
こちらは本当に間近に静かに拝観することが出来ます。
僕達が訪れた時も、
しばらくは他に拝観者はなく、
老夫婦が1組後から訪れただけでした。

ほんの10センチくらいの間近で手を合わせます。
まさに至福の時間です。

しかし、驚くなかれこの蟹満寺からそれほど離れていない場所に、
もう1箇所、矢張り見事な国宝に指定されたご本尊を頂く、
古寺が存在します。

その全景がこちら。
観音寺本堂.jpg

これがまた田園の中に忽然とあるのです。
かつては大寺であったのですが、
今はそれほど古くもない、
ひなびたお堂を1つ残すのみです。

隣にご住職のお宅があり、
そこで拝観のお願いをすると、
本堂に案内して頂けます。

薄暗いお堂の奥に厨子があります。
まずお堂に入ってお焼香をして、
ご住職がご本尊に拝観者の来た旨を告げると、
厨子の扉を開き、
本当に数センチの間近で、
拝ませて頂くことが出来ます。

その後本尊がこちら。
観音寺十一面観音.jpg
奈良中期天平時代の十一面観音様です。
勿論国宝です。

奈良時代の十一面観音と言えば、
聖林寺の観音様くらいしか、
思い付く仏様はなく、
あちらも傑作ですが、
この仏様も決してひけは取りません。

それをこのように間近に拝むことの出来る時間は、
これもまさに至福のひと時です。

この画像は当日お寺で買ったブロマイドですが、
実際にこの通りのお姿で、
頭の上の小さなお顔も、
その多くは奈良時代のままです。
風格に溢れた素晴らしいフォルムで、
うっとりと見惚れるしかないのです。

今日は京都の南山城にひっそりとおられる、
日本の誇る藝術作品の話でした。

それでは今日はこのくらいで。

皆さんも良い休日をお過ごし下さい。

石原がお送りしました。
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